2025.03.25

CES現地レポート

【第2回】CES 2025から見えたAIの潮流

軽量化やエッジ、エージェントの加速

大橋 大介 福田 圭哉 

2025年1月7日から10日の4日間にわたり米ラスベガスにて開催された世界最大規模のテクノロジー展示会「CES 2025」に、当社のコンサルタントが参加した。今年は世界中から4,500を超える出展と、141,000を超える参加者が会場に足を運んだ[1]。 今年のテーマは「Dive in」、直訳すると「飛び込む、没頭する、もぐり込む」である。CES視察を通じて「Dive in」は、XR技術によって提供される「没入体験」、AI技術のあらゆる製品や生活・社会への「組み込み」、新たな価値創出に向けた技術の「組み合わせ」を表現していると感じた。
本稿では、GAFAMをはじめとするビッグ・テック企業の出展状況などを踏まえ、現地で視察を通じて発見された、今後の社会・ビジネス・テクノロジーにおいて注目すべきAIのトレンドをご紹介する。
※なお、そもそもCESとは何かを知らない方は、昨年発行したCES 2024現地レポート「【第1回】プロダクトへのAI普及とサステナビリティの波」に記載しているため併せて読んでいただきたい。

AIは当たり前に。軽量化・エッジ・インクルーシブに焦点

今年のCES視察を通してまず感じたことは、「AIは当たり前になっている」ということだ。AIを全面に出してはいないものの、詳細を聞くと予測や識別、生成系AIを利用している展示が多かった。AIを利用すること自体は目的ではなく、AIでどのような価値提供ができるかが重要だという意識が多くの企業に浸透してきているのであろう。

AI自体の展示としては、軽量化・エッジにフォーカスしているものが多かった。SoftbankおよびAizipは、スマートフォンなどのエッジデバイスで魚の尾数をカウントできる養殖産業向けのアプリケーションや、オフライン環境でも利用できる小規模な言語モデルによるQAアプリケーションなどを展示していた。軽量化によって通信が乏しい環境でもAIを利用できるため、洋上や山岳地帯、機内など、よりさまざまなシーンでのAI利用を促進する手助けとなる技術であろう。

またDeepXは、エッジAI向けの半導体チップを展示し、識別などがエッジで十分に可能なレベルになっていることをアピールしていた。エッジAIはクラウドを介す必要がなくなるため、リアルタイムな制御が求められる自動運転やスマートファクトリーには必要不可欠な技術である。AIの軽量化・エッジは省電力化に繋がるため、サステナビリティの観点からも非常に重要な役割を担うと考えられる。

AIの軽量化(左)・エッジ(右)の展示例

 

さらに、インクルーシブにも要注目である。
LBS Techは、車椅子のユーザー向けに安全なルートを提示・ガイドしてくれるアプリを展示していた。Googleマップのような最短ルートではなく、歩道環境を基にした安全なルートをAIが提示する。道にスマホを向けるとARで進む道を教えてくれたり、障害物があるとアラートを出したりする機能も付いている。特に車椅子ユーザー向けに重要となる「道の狭さ」や「階段」といった情報は、衛星画像や現地調査、ユーザーフィードバックを基に更新しているとのことだ。他にはL’Orealが運動障害を持つ人でもメイクが可能になる家電を講演で紹介していた。このように、障害の有無や年齢などに関係なく全ての人が利用でき、より生活を豊かにするためのインクルーシブなAI活用が進んでいくであろう。

インクルーシブなAI活用の展示例

 

AIエージェントによるユーザー体験の変革

オンラインで配信されたNVIDIA CEOのJensen Huang氏の基調講演を聞いた方は多いのではないだろうか。講演の中ではAIエージェントが技術トレンドとして取り上げられており、「今後AIエージェントの進化に伴い、IT部門はエージェントの育成部門に変わるだろう」とまで言われている。また、Jensen Huang氏とソフトバンクグループ株式会社代表取締役会長の孫正義氏とのオンライン対談では「一人一人がパーソナライズされたAIエージェントを持つ」と言われており、今後AIエージェントによりユーザー体験が大きく変革することを示唆していた。現地の展示においてもAIエージェントの風潮を実感した。例えば、Tuya Smartは防犯カメラやセンサー、ルームライトなどの家電と併せて、その統括的技術あるいはユーザーとのインターフェース技術としてAIエージェントを展示していた。

AIエージェントの展示例

 
その他にもLG ElectronicsやSamsung Electronics、Hisenseといった大手家電企業もAIエージェント活用を公表していた。世の中では「2025年はAIエージェント元年」とも言われているが、今回の視察を通じてそれを改めて実感することができた。今後、家電領域に限らず、あらゆる領域に関わるビジネスパーソンはAIエージェントの動向に一層注目することが求められる。

メガトレンドに翻弄される企業たち

今年のCESでは、ビッグ・テック企業の展示ブースが限定的であったことも非常に印象的だった。特にGAFAMの存在感は非常に薄く、Amazon以外の企業はメイン会場に展示ブースを設けていなかった(Google傘下のWaymoは展示ブースを設けていたが、Googleブランドを全面に押し出したものではなかった)。唯一大々的に展示ブースを設けていたAmazonは、AIによる動体検知を組み込んだ防犯・見守り用のセキュリティカメラや生成AIによる絵画作成機能を持ったスマートテレビ、自動運転向けのデータ基盤や生成AI、IoTサービスを包括的に提供することで開発スピードを向上できるプラットフォームなど、幅広いソリューションの展示を行っていた。

GAFAMで唯一大々的に展示ブースを設けていたAmazon

 
ビッグ・テック企業の展示ブースが限定的であったのは、メガトレンドが見通しづらくなっていることが影響しているのではないかと筆者は考えている。メガトレンドとは、長期にわたって社会・政治・経済・テクノロジー・環境などに影響を与える構造的な変化の潮流のことである。
 
目下のメガトレンドの1つは、トランプ2.0、すなわちトランプ大統領の再就任である。CES 2025開催時点では正式に大統領に就任しておらず、テクノロジーに対してどのような政策を取るのか、今後どういう方向に世界が進んでいくのか見通しづらく、ビッグ・テック企業としても、どのようなテクノロジー・サービスをアピールするべきなのか分からなかったのではないだろうか。
 
他にもサステナビリティやダイバーシティ、米中対立、国ごとに大きく異なる法規制など、近年のテクノロジーはメガトレンドと表裏一体であり、それらに適切に対応しないと事業継続が難しくなる。対応に苦慮すれば、ビッグ・テック企業ですら新興企業から遅れをとってしまう可能性もあるだろう。日本企業もメガトレンドを常に把握し、素早く対応していかなければならない。

おわりに

今回のCES 2025の視察を通じて、テクノロジーの進化はビジネス、そして社会課題と密接に関わっているということを強く実感した。まさに本稿で紹介したAIの軽量化・エッジAIは、サステナビリティの向上という大きな社会課題の解決に寄与する。
 
今後も継続的に最新のテクノロジートレンドを追い、活用・発信することで、顧客や社会の課題解決に貢献していきたい。

  1. [1] 電波新聞(2025),“CES閉幕、昨年上回る14万人超が来場 CTA「最大の年次ビジネスイベントだ」”, https://dempa-digital.com/article/625327(参照2025年2月14日)

大橋 大介

デジタルトランスフォーメーション担当

シニアコンサルタント

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

福田 圭哉

イノベーションマネジメント担当

シニアコンサルタント

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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