2025.02.25

情報管理をトリガーに営業活動の脱属人化を図る“データドリブンセールス”実現のアプローチ

データと社内の“暗黙知”を可視化し、持続可能な営業組織を構築するには

岡田 憲尚 

近年、データに基づき次に取るべきアクションを定める「データドリブン」のアプローチが注目を集めているが、その取り組みの多くは売り上げや製品の在庫などといった、「すでに可視化されているデータ」のみを掛け合わせて予測などを立てるものが一般的である。
しかし、営業部門においては可視化されたデータのみならず、「業務と担当者個々人の持つ知見や勘」「顧客との関係性」などといった、業務に大きな影響を及ぼす“暗黙知”が数多く存在している。データドリブンでの営業活動改善、ひいては営業組織の強化を目指すならば、既存のデータのみならず暗黙知も含めてデータとして可視化したうえ、すべてのデータを掛け合わせて商談に向けた提案準備や商談活動を最適化する必要がある。
特に伝統的大企業においては、有用な営業ノウハウがトップセールスの頭の中だけに存在するなど個人スキル依存となっているケースが多い傾向にあり、属人化することで団塊世代の定年退職等による営業人員の減少に対応できず、トップセールスの離職などが大幅な営業力低下につながってしまう。
本稿では、営業人材の流動性が高まる昨今の時代において特に有効となる“真にデータドリブンの営業組織”を構築するためのアプローチを紹介する。

1. 属人化しがちな営業活動をデータドリブンに変える意義

近年、データに基づき次に取るべきアクションを定める「データドリブン」のアプローチが注目を集めている。しかし営業部門においては業務と担当者個々人の持つ知見や勘、顧客との関係性などといったデータが可視化されておらず、かつ業務に大きな影響を及ぼす暗黙知が数多く存在している。

その背景として、多様化する顧客ニーズや年々膨れてきた社内業務により日々の業務負荷が高まる中、営業活動が個人や一部組織の中で個別最適化されていった経緯が大きいと考える。特に営業活動の属人化は伝統的大企業に多い傾向にあり、昨今高まりつつある人材の流動性や団塊世代の定年退職等、トップセールスの離職などが大幅な営業力低下につながってしまう可能性が高い。

このような状況下で、有効な対応策がある。ノウハウが残り難い法人営業プロセスにおいては勘や経験といった要素を極力排除し、営業組織が収集・蓄積したデータの分析・活用を通じて、営業生産性を高める体系的な取り組みである「データドリブンセールス」だ。本取り組みにおいて、あらゆる営業活動で取得すべきデータ(Input)や活用すべきデータ(Output)が整理された状態で、各データ軸での活動目的を明確化できるようになる。これにより営業員の取るべき活動がクリアになり、①営業プロセスが標準化・均質化されていく。そして、データ収集や活用によって生じた成果物はそれ自体が可視化できるナレッジとなるため、組織でナレッジを管理・活用する仕組みを構築することで②営業ノウハウが形式知化(ナレッジ化)される。さらに、若手や中途採用者がこのナレッジを活用することで③異動後の立ち上がり(キャッチアップ)が早くなる。

また、こういった一連の活動は営業データやナレッジを通して顧客との関係性もデータとして継承できる。そのため営業員はそのデータを活用することで、もし人事異動が生じた場合でも、営業員・顧客双方一から関係を再構築する手間が省けるため、④組織としての営業パフォ―マンス向上も見込める。また、既存顧客との成功体験の蓄積が⑤新規顧客の開拓にもつながるなど、データ活用が多くの面でメリットを生む(図1)。

図1:営業組織が抱える悩みとそれを解消するデータドリブンセールスの意義

 

2. 営業の現場で収集するべき「データ」の種類

当社が掲げる「データドリブンセールス」で取り扱うデータは、まず基幹システムで管理されている売り上げや在庫情報、案件情報や取引先情報等のいわゆる一般的な「Data層」の情報が挙げられる。そして市場動向や競合情報、商談情報や問い合わせ情報等、顧客との商談戦略を立てる際に重要となる「Information層」、さらには収集したデータから分析された予測値や分析結果から導出された示唆、顧客との商談で得たknow・Who情報等の「Intelligence層」までを対象としている(図2)。

図2:データドリブンセールスで対象となるセールス情報イメージ

 

3. データドリブンセールス導入で起こりがちな問題

データドリブンセールスの実現・定着化に向けては多くのリソースと時間を要するが、だからこそ導入段階にてさまざまな問題が発生しがちになる。例えば、データドリブンセールスの肝である“データ”に関してはそもそも社内で保持されていないものや、各営業員の経験やセール活動で培ったTipsやKnow Who情報等の暗黙知を集めて可視化させるところから検討して仕組みを作れたとしても、分析するリソースの不足や、課題や問題に対する有効な打ち手を見出せないケースも多い。また、打ち手を基にアクションプランを作成しても、複数部門を跨ぐ際に整合しない・合意形成できないことや、上層部でオーソライズしても現場がすぐにアクションプランを実行してくれないこともある。短期的な成果に固執せず、時間をかけて一つ一つ現場に納得してもらいながら定着化・習熟化を行う必要があることを上層部・現場の双方が理解していないと、成果を待てずに、せっかく作った新しい仕組み(アクションプラン)が間違っていると決めつけられてしまう(図3)。

図3:データドリブンセールスの導入過程で起こりがちな問題

 

4. 可視化する際のポイント

ここからは一般的に可視化されていないデータをどのように収集し、どのように紐づけていくのがよいかなどを、かいつまんで紹介する。商談において顧客が意思決定をする際に重視するのが「機能的価値」と「情緒的価値」だ。それぞれ営業活動の提供価値が異なり、機能的価は便益や独自性といった製品がもたらす利益、情緒的価値は個別顧客に向けた最適な提案力など営業担当者への期待を指す。そのため、営業データを可視化する際にはプロセスごとに「顧客が求める価値」が何かを明確にし、それに対し必要なデータ(インプットデータ)と、その結果得られるデータ(アウトプットデータ)を整理することが重要である。

図4がデータを整理するための具体例だ。自社情報や競合情報といったセールスデータがどのアクションと紐づいているのかの関連性を表している。商談を成功させるために機能的価値を訴求するセールスデータは集まっていても、成功率を上げるもう一つの情緒的価値に関するデータが集まっておらず、データドリブンでの営業力強化施策として片手落ちになってしまっているケースが多く見受けられる。アクションを具体化し必要な情報を漏れなく可視化することで、データ起点に商談時の目的、およびアクションが明確になり、営業員による商談内容のバラつきを減らし、組織全体の営業力底上げにつながる。

図4:営業活動(アクション)とデータの構造化

 

5. おわりに

営業活動に関するさまざまなデータを蓄積・活用していくデータドリブンセールスの取り組みは、単なる業務標準化による営業組織全体の営業力向上だけに留まらない。本取り組みを進めていく中で既存営業プロセスを見直す機会にもなり、営業プロセスの無駄や負荷業務の削減にもつながる。また、各種情報を紐づけて管理する仕組みは、近い将来に訪れる生成AI等のIT技術の活用によるドラスティックな営業改革を行う上での準備としても最適と考えている。

ぜひ本稿を参考に、データドリブンセールスの取り組みを実践して行ってほしい。

関連情報

2024年10月22日お知らせ:
クニエ、企業の「データドリブンセールス」実現を支援
~データ×社内の“暗黙知”×社外ノウハウで成功パターン導出、強固で持続可能な営業組織を構築~
https://www.qunie.com/release/20241022/

岡田 憲尚

マーケティング戦略/営業改革担当

マネージャー

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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