2025.02.18

なぜ、人事評価制度がうまく機能しないのか

“運用”に潜む落とし穴を回避し、制度を成功させるための対応とは

原口 夏美  

評価制度は人事制度の中でも等級制度・報酬制度と並び「基幹人事制度」と呼ばれ、人材マネジメントの中核を担う制度である。中でも評価制度は人材の役割発揮度・成果等を評価・フィードバックし、個々の成長や組織目標の達成を支えるための重要な仕組みである。一方で、「評価制度が導入目的を果たしていない」、「社員の不満に繋がっている」と感じている人事担当者も少なくない。この理由として、制度そのものではなくその後の“運用”の不備に起因している可能性がある。
本稿では、評価制度が機能しない原因と対応策について解説する。

評価制度の導入目的

評価制度は多くの企業で導入されている制度であり、導入目的も企業により異なるが、一般的に企業が評価制度を導入する目的は大きく3つある。

  1. 人材育成を促進すること:社員の強み/弱みを的確に把握することで、社員の育成を支援する
  2. 社員へ指標を明示すること:会社が目指す方向性や社員に求める能力/行動などを明確にし、社員の足並みを揃える
  3. 公正な処遇を実現すること:社員を客観的に判断し、公正な処遇(昇格、報酬、配置の決定等)を行うための判断根拠とする

評価制度は結果が直接的/間接的に処遇に繋がるため、社員のモチベーションに大きく影響を与える制度とも言える。そのため、評価制度を導入する場合には社員が納得するような制度・運用とすることが重要となる。

評価制度でよくある失敗例

評価制度は重要な制度であるという認識を多くの企業が持っているにも関わらず、評価制度がうまく機能しなくなってしまうのはなぜだろうか。下記に当社によく来る相談の例を挙げる。

  • 評価者により評価の甘辛(評価が優しい/厳しい)が生じている
  • 評価制度そのものが社員に十分に理解されていない
  • 毎年同じ目標を立てることが常態化している/適正な目標なのかがわからない
  • 人や組織によりフィードバックの方法が異なる/もしくは実施できていない
  • 評価が育成に繋がっている実感がない

読者の中にも同じような悩みを抱えている方がいるかもしれない。では、このような失敗がなぜ起こってしまうのか。原因を整理すると、評価制度そのものでなく運用面に問題が生じているケースが多いことに気付く。例えば評価者により評価の甘辛が生じている場合、制度として評価基準が定義されていないケースもあるが、定義された評価基準を評価者が十分に理解できていない、評価基準は理解しているが評価力が備わっておらず評価エラーが生じている等という運用に原因のあるケースの方が多い。
*評価エラー:中心化傾向(評価者が極端な評価差を出すことをためらう、評価に対する自信が欠如している等で評価が中央に集中することを指す)、寛大化傾向(被評価者の反発を恐れる気持ちや、被評価者に嫌われたくない気持ちがあり、全体的に評価が甘くなることを指す)、ハロー効果(何か一つ優れている、あるいは劣っている特性があると、その特性に惑わされて何もかもが優れている、あるいは劣っていると判断してしまうことを指す)など

図1:評価制度のよくある失敗例と原因

 

実際に当社にくる相談でも評価制度そのものはうまく設計されているが、その後の運用に問題があるというケースは少なくない。重要な制度という認識のもと、制度設計は時間をかけて行ったが、運用ルールを十分に整備できていなかった、新制度を導入した後のフォローができていなかったということが「評価制度が機能しない」大きな原因であると筆者は考える。
もちろん、制度が十分に検討されていない、制度に矛盾が生じているということもゼロではなく、時には評価制度そのものを見直す必要があるケースもあるが、本稿ではソフト面(運用)での対策に焦点を絞って解説する。

失敗例への対応策

先ほど整理した失敗例を基に、運用面での対応策を整理した(図2)。

まず実施したいのが、①評価者の教育の実施である。管理職の昇格時に管理職研修を実施し、その中で管理職の心構えや評価方法を学ぶという会社も多い。それでもなお、評価者の評価力が上がらないという場合は実施方法、内容や実施頻度を見直してみるとよいだろう。最近ではオンライン形式で研修を実施する企業も増えており、研修は実施しているが内容をきちんと聞いていないというケースも耳にするようになった。研修はオフライン、もしくはオンラインであっても原則カメラはONにするなどのルールを設けて行うとよい。また内容については座学のみでなく、実際に評価を行う上で起こりそうなことを題材にしたワークを導入するなど、評価者が「自分ごと」として捉えられるような工夫を組み込みたい。特に評価基準は「期待を上回る」「目標を達成した」といった抽象的な表現に留まることも多いため、何をもって「期待を上回る」「目標を達成した」と言えるのか、全社の解釈を合わせたい。また、実施頻度は管理職登用時や制度変更時のみでなく、数年に1度は必ず受講するなどして、評価者として頭に入れておくべきことを定期的にインプットする機会をつくるとよい。

次に②評価制度の社内浸透について解説する。本項目は評価制度に限らず、等級・報酬制度にも言えることであるが、制度の説明資料は社員が“いつでも”“容易”に確認できる状態としておくことが望ましい。開示はしているが探しにくい場所にある、人事担当者に問い合わせをしないと資料をもらえない、制度の説明資料がわかりにくい/そもそも作成していないという状態となっている場合は早期に改善したい。制度説明資料には、制度の説明のみでなく、事例等を用いて「このような目標でこのような成果を出した場合、この評価になる」など、制度の解釈に関するガイドラインを設けられるとなおよい(評価者研修資料を一部抜粋して制度説明資料に載せることも可)。その上で、評価実施時期に説明資料の場所を全社周知する、説明会の場を設ける(任意参加としてもよい)なども有効だ。

最後に③運用状況のモニタリング/改善施策の実施である。評価者研修や社内浸透施策を実行したからといって、必ずしも評価制度が理想の状態で運用されるとは限らない。担当者は、「組織や評価者間で評価のばらつきが生じていないか」「フィードバックが適切に行われているか」「期中のコミュニケーションが取れているか」「設定される目標が適切か」など、組織の課題感に応じた確認項目を設け、評価制度が適切に運用されているかを定期的に確認する必要がある。何か問題が生じていそうな項目があれば、関係者へのヒアリング等を通じて問題の深掘りを行い、改善策を講じていく。

製造業の例では、期中の1on1を四半期に1度実施し、進捗を確認する場を設けることがルール化されていた。しかしアンケートを実施してみると評価の納得度が低く、納得度の低い社員の多くは1on1が実施されていないと回答した。そこで1on1実施時期の全社へのアナウンスや、実施していない社員に対する個別フォローを行った。また、1on1で話す内容が分からないという現場の意見を踏まえ、1on1で話すべき内容をリスト化して評価者(上司)に配布して1on1の質の向上にも取り組んだ。結果、アンケートでは評価の納得度に関するスコアが上昇した。

図2:失敗例への対応策

 

評価制度における三大原則

ここで、評価の三大原則を紹介する。一般的に評価制度の三大原則と言われるのが「透明性」「公平性」「納得性」である。人事担当者であれば一度は耳にしたことがあるワードかもしれないが、評価制度を検討する際には、制度のみでなく運用面でもこの三大原則が満たされているかを意識したい。

  • 透明性:評価制度の内容(評価基準、評価方法、評価結果等)が社員に開示されているか
  • 公平性:評価者の主観や価値観に依存せず、ルールに則った評価が実施されているか。特定の個人が有利/不利になることなく公平に評価されているか
  • 納得性:被評価者が評価結果や処遇の内容に納得しているか

先ほどの3つの対応策も実はこの三大原則を満たすための施策となっており、検討時から意識をしていれば評価が機能不全に陥ってしまう可能性を回避できる。

おわりに

本稿では評価制度のよくある失敗例とその対応策として運用面での施策を解説した。繰り返しとなるが、制度そのものに問題があるケースもあるものの、実は運用がうまくいっていないというケースは多い。評価制度に悩みを抱えている場合、制度の改定を検討する前に、まずは「運用に問題がないか」を確認したい。また、読者の中には、本稿が当たり前の内容だと感じる方も多いのではないだろうか。一方でこのような基本的な内容ができていないというケースも非常に多いのが実態である。

本稿をきっかけに、評価制度の基本を振り返り、基本を大切にした制度設計・運用を意識していただければ幸いである。

原口 夏美

人材マネジメント担当

シニアコンサルタント

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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