2024.03.11

CES 2024 現地レポート

【第1回】プロダクトへのAI普及とサステナビリティの波

中川 貴史 畠山 敦志 

2024年1月9日から12日の4日間に渡り、米ラスベガスにて開催された「CES 2024」に参加した。本連載では、現地での視察を通じて発見された、今後の社会において注目すべきトレンドを紹介する。
第1回目では、世間でも注目が高まっている「AI」と「サステナビリティ」にフォーカスし、それぞれの今後について筆者の見解を紹介する。

はじめに

まず、CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)について簡単に紹介する。CESはConsumer Technology Association (CTA) が主催する、世界最大規模の家電IT見本市と言われる展示会である。世界をリードする企業がブースを出展し、AIやIoT、ロボティクスなどに加え、デジタルヘルスやフードテック、スペーステックなど最新のテクノロジーや今後注目が高まる可能性が高い技術など、幅広いテクノロジーが展示されている。日本からは自動車や家電などのメーカーに加え、スタートアップ企業も数多くブースを出展していた。
主催者の発表によると、CES2024は世界中から4,300を超える出展と、135,000を超える参加者が会場に足を運んだと言う。

AIのプロダクトへの搭載の広がり

CESに訪れてまず目に付くことは、日本でもよく耳にする生成AIについて多くのパビリオンやブースで取り扱われていたことだ。日本でも生成AIへの注目度は高いものの、ビジネス現場への導入や活用はまだそれほど多くない。しかし、CESに出展している各企業では単純なキーワードとしてのブームに留まらず、各社プロダクトに組み込む等実用フェーズに移行しているものが多く見られた。

例えばGoogleは生成AIを活用し、Android端末でオリジナルの壁紙を作成できるサービスを紹介していた。また、Walmartは自社のアプリに生成AIの「GenAI」を組み込むことでユーザーの検索の補助を行い、ユーザー体験を向上させ、売り上げの拡大を目指している。これまでの検索機能では、スナック菓子などのカテゴリーや商品名を入れて検索するのが一般的であるが、この検索機能では、「スポーツ観戦」などと検索することで、スポーツ観戦する際にあると良さそうなもの(例えばポテトチップス、清涼飲料、大型テレビ等)を検索結果として表示する。つまりユーザーが想起していなかったものまで検索できることで、効率的な検索と購買機会の拡大が実現するというわけだ。

図1:プロダクトへの生成AI搭載

 

また生成AI以外にも、多くの企業でAIの活用が進んでおり、SamsungのAI搭載のスマートホームでは料理の際に利用している電力の消費量や何時ごろ帰宅して電気をつけるか、好みの冷房温度など生活に関するユーザーデータを広く収集し活用することでAIがユーザーの生活に最適化された住環境を自動で提供することと、より効率的なエネルギー使用の両方を実現していた。加えて、AI搭載の椅子や枕など、より身近なプロダクトを扱うような会社もAIを導入しており、生成AIを含むAIのテクノロジー全般が我々の生活の質・利便性の向上に良い影響を与えることを想像できる。

図2:AI機能を活用したライフスタイルプロダクト

 

産業・分野横断でのサステナビリティの重要性

次に触れるテーマは「サステナビリティ」である。
CESを訪れて感じたことは、どの企業、どのパビリオンでもサステナビリティに関するプロダクトやビジネスを必ずと言っていいほど取り扱っているということだ。
世界ではサステナビリティは全産業の共通テーマとなっており、企業による環境等に関する取り組みを単にアピールするためのものから一歩進んで、ビジネス上の売り上げなどと同等の、重要な指標の一つになっているということを肌で感じることができた。加えて、指標としての重要性もさることながら、企業における商品開発や新たな技術革新の源泉の一つとして、サステナビリティを取り扱っていた。例えば日本では家電メーカーとして有名なHisenseでは効率的にエネルギーを利用できる仕組みを応用して車を開発し、事業の多角化を進めるような姿勢をみることができた。またAmazonでは自社のソフトウェアを活用したデジタルツイン技術によって、よりエネルギー効率の高い自動車車両の開発や修理タイミングの予測などを他の企業にサービスとして提供していた。加えて、Samsungでは自社の家電やスマートフォンなど多くの顧客へのタッチポイントから収集したデータを統合し、活用することでエネルギー使用量をアプリでまとめて管理できる仕組みを開発し、テスラなど他社との連携までも行い、更なる顧客の囲い込みを目指している。

図3:サステナビリティを重視したプロダクト

 

日本でのサステナビリティの扱いについて考えてみると一部の企業はこういった取り組みを進めているものの積極的に投資を行うというよりも株主へのアピールや社会貢献の範疇に留まり、自社ビジネスの核として活用するといった企業はまだ少ない印象を受ける。日本のビジネスにおけるサステナビリティの重要性を更に拡大していくためにも、DXやAIといった既存の取り組みテーマと組み合わせることでよりビジネス価値を生み出していく方向性が考えられる。CESでも多くの企業がプロダクトのエネルギー消費最適化などにAIを活用しており、今後日本でも同様の取り組みがさらに進展していくだろう。将来的は日本でも事業・ビジネスの改革や再構築を行う目的の一つとしてサステナビリティに取り組んでいくことが日本企業の競争力強化に重要な要素となるかもしれない。

日本が世界をリードするために必要なこと

日本からも多くの企業やスタートアップがCESに出展していたが、アジア各国、とりわけ韓国の出展が多く見られた。韓国企業の出展社数の増加は今回のCESにおいて顕著で、前年比35%増の761社で過去最多であった[1]。韓国を代表する企業であるSamsungやLGは、大規模なブースで最先端の透明ディスプレイを揃えて展示し、多くのメディアや来場客を惹きつけていた。

図4:SamsungとLGが発表した透明ディスプレイ

 

韓国企業の中でも特にスタートアップ企業は、日本企業が約60社に留まる中、約600社の出展があった[2]。出展企業を見てみると、ヘルスケアやAIを取り扱うスタートアップ企業が多く、非常に活況な印象を受けた。政府が「スタートアップコリア」総合対策を発表し、ベンチャー・スタートアップ企業がデジタル経済をリードするグローバル起業大国を実現するというビジョンを掲げており、スタートアップ支援に力を入れている[3]。
また、韓国のスタートアップブースを見てみると、大学発スタートアップが多く出展している点が目についた。韓国政府が国内の大学と連携し、大学発スタートアップを多くCESへ誘致することで大規模なブースを確保するとともに、多くの来場者や協業可能性のある企業をブースへ集客することによる、将来的なビジネス機会の創出を目論んでいると考えられる。

日本政府も2022年に「スタートアップ育成5か年計画」を発表し、スタートアップ投資額を5年で10倍にする方針を打ち出している[4]。今後、日本発スタートアップが世界に羽ばたいていくためにも、スタートアップの育成はもちろん、CESに代表されるような世界的なイベントでの積極的なアピールによる協業先の誘致にも国を挙げて力を入れていくことが求められると筆者は考える。

おわりに

今回のCES視察を通じて、筆者が日頃コンサルティングを通じて感じていた「ビジネス全体に対してテクノロジーは不可分なもの」という考えがより強いものとなった。特に生成AIについては各企業においていち早くプロダクトへの導入が進んでおり、企業活動における生成AIの取り組みが待ったなしの状況になったと考える。

また、サステナビリティの重要性が社会全体に浸透している状況を踏まえて、売上や利益創出から一歩進んだ観点が不可欠となっている。今後はテクノロジーを活用してビジネスやプロダクトを持続可能なものにしていく取り組みはもちろんのこと、その実現のためのテクノロジーの活用自体も持続可能なものにする「サステナブルテック」領域への積極的な投資が重要になるとみられる。

これらの最新テクノロジーの動向を適切に見極め、自社のビジネスへ適切にテクノロジーを用いることで課題解決策を考えることで新たな価値創出を行っていくことが、各企業に求められている。

  1. [1] 日本経済新聞(2024),“韓国企業のCES出展最多に 国内IPO小粒化が背中押す”, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM1598G0V10C24A1000000/ (参照日:2024年2月1日)
  2. [2] 日本経済新聞社(2024), “CES出展のスタートアップ、韓国勢が存在感 最多の600社”, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF118S00R10C24A1000000/ (参照日:2024年2月1日)
  3. [3] ジェトロ(2023), “グローバル起業大国実現へ、「スタートアップコリア」総合対策を発表”, https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/09/241771710933a67f.html (参照日:2024年2月1日)
  4. [4] 内閣官房(2022),“スタートアップ育成5か年計画”, https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/bunkakai/suikusei_dai3/siryou1.pdf (参照日:2024年2月1日)

中川 貴史

デジタルトランスフォーメーション担当

マネージャー

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

畠山 敦志

デジタルトランスフォーメーション担当

シニアコンサルタント

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

  • facebook
  • はてなブックマーク
QUNIE