2021.04.26

SDGsテックを用いてIT部門が支援できる社会貢献

サステナブル企業が取り組んでいるSDGsテックの考察

CIOサポート担当 

年間12兆ドルの市場機会を生み出すSDGs[1]は、日本企業にとって大きなビジネスチャンスである。サステナビリティを重視する調達ガイドラインを持つ取引先、サステナビリティへの関心が高い消費者、責任投資原則(PRI, Principles for Responsible Investment:2006年に国連主導で発足した、加盟する機関投資家などが投資ポートフォリオの基本課題への取り組みについて署名した一連の投資原則)に署名した投資家から選ばれ続ける企業になるためにも、SDGsへの取り組みは不可欠である。SDGsの達成期限である2030年まで既に10年を切っており、SDGs市場への進出が企業の喫緊の課題である。

しかし、SDGsを経営に取り込んでいる日本企業はまだ少ない。2019年時点での日本の大企業におけるSDGsコンパス(行動指針)の進捗度合いは、SDGsの理解が19%、優先課題の決定が26%、目標設定が26%、経営統合が15%、報告が14%[2]であり、経営統合にまだ至っていない企業が7割超にものぼる。また、世界経済フォーラムの2020年のSDGs認知度調査によれば、世界平均では74%もの人々がSDGsを認知しているのに対して、日本では過半数の51%がSDGsの用語を聞いたことすらないと答えており[3]、日本におけるSDGsの取り組みは世界よりも遅れているといわざるを得ない。このままビジネスチャンスを逃すことのないよう、日本企業にはSDGs市場への積極的な進出が期待され、特にテクノロジーを活用したSDGsの取り組み、SDGsテックにおいては、IT部門からの支援が求められる機会が増えると想定される。

SDGsテックを用いてIT部門が支援できる社会貢献とは何か。この問いに示唆を与えるのが、ESG(環境:Environment、社会:Social、企業統治:Governance)に配慮した経営という観点で高い評価を受けている、ESG Indexの組入銘柄である企業によるSDGsテックの活動事例だ。それらの企業は、サステナビリティレポートの公開という形でSDGsコンパスの最終ステップである報告を終えており、社会貢献のみならず企業の業績向上という点でも大いに参考となる。フィデリティ証券の調査によれば、ESGスコアが高い企業はESGスコアが低い企業よりも株価パフォーマンスが優れており[4]、投資家がサステナブル企業を優先的に投資対象に選んでいることがわかる。本稿では、ESG Indexの組入銘柄である企業の活動事例のうち、IT部門で取り組みやすいSDGsテックを考察する。

IT部門で取り組みやすいSDGsテックの3つの要件

まず、どのようなSDGsテック案件であればIT部門として取り組みやすいのか、その要件を述べる。

要件1. 企業の業績向上への貢献度合いが高い

企業がSDGsに継続的に取り組むためにはSDGsを通じた業績向上の仕組みが必要となる。企業が無償の社会貢献活動としてSDGsに取り組むと、業績が好調な時はその施策を継続できるが、そうでない時は継続が難しい。SDGsが業績向上に貢献して初めて、企業のSDGsに対するインセンティブが働く。SDGsテックの活用は初期投資や維持コストもかかる取り組みである以上、IT部門として費用対効果を説明するためにも、業績向上の仕組みを明らかにしなければならない。

要件2. 企業から社会に利益をもたらす

サステナブル企業だと認知されて投資家・取引先・顧客から選ばれるためには、社会に不利益を被らせないだけでなく、社会に利益をもたらす必要がある。例えば、情報漏洩事故を起こさないために情報セキュリティ対策を取ることは企業にとって必須の取り組みだが、事故を起こしていないという一点だけでサステナブル企業だと主張するのは難しい。それよりもSDGsテックを用いたCO2排出量削減といった社会に利益をもたらす活動の方が、サステナビリティへの取り組みとして主張しやすい。情報セキュリティ対策はもちろん、消費電力量削減なども、IT部門として推進しやすいテーマである。

要件3. 異なる複数の業種によって数多く取り組まれている

ESG Index組入銘柄の企業による取り組み事例が多いSDGsテックは、実現可能性が高い。特に、異なるたくさんの業種によって取り組まれているSDGsテックは、業界や企業に特化していない普遍的な取り組みであるため、IT部門で取り組みやすいと考えられる。例えば、自動運転技術は漫然運転や脇見運転といった運転手の不注意による交通事故を減らすことを期待されているSDGsテックだが、この取り組みを推進しているのは自動車メーカーと航空機メーカーのみである。自動車・輸送用機器メーカーであれば自動運転技術の開発に向けたIT部門の支援が考えられるが、それ以外の企業が自動運転技術をすぐに活かせるとは考えにくい。それよりも、同じモビリティシステムでもエコスマートな移動・輸送をテーマとした技術であれば、自動車メーカーや海運会社のみならず、建設会社による不整地運搬車、電気機器メーカーによる搬送作業など多数の活用場面が想定できる。業種を問わず、いろいろな企業が製造や物流でエコスマートな移動・輸送を達成する余地があり、IT部門からの支援が期待される場面も多いと考えられる。

これら3つの要件について解説していく。

業績向上への貢献度合いが高いSDGsテック

12兆ドルの市場機会を捉えるSDGsテック

国連は、SDGsの市場機会が年間12兆ドルにものぼると試算している。具体的にどのような市場機会があるのか、そのテーマと市場機会の規模も発表しており、それが図1である[1]。これらのテーマの達成を目指すSDGsテックは企業の業績向上に貢献できる可能性が高く、ここでは上位3つのテーマを紹介する。

図1:年間12兆ドルのSDGs市場機会の内訳(単位:10億ドル)

出典:United Nations ‘Better Business, Better World’[1]

 

モビリティシステム(2兆200億ドル)

エコスマートな移動・輸送、自動運転技術、カーシェアリング用システム、デジタル技術による事故対応・ロードサービスがこの分野に含まれる。特にエコスマートな移動・輸送はあらゆる業界の業績向上に貢献すると考えられる。テレマティクス技術(自動車などの移動体に通信システムを組み合わせ、リアルタイムに情報サービスを提供する技術)によって集められた運行データを活用してAIが安全・最短・最速なルートを予測・提案することで、企業は安全な物流を実現し燃料費を削減できる。

新しい医療ソリューション(1兆6500億ドル)

デジタル技術による病気の早期発見・重症化予防、医療・介護ロボット、医療のICT化、オンライン診療・治療、患者向け治療支援アプリがこの分野に含まれる。これらのSDGsテックはヘルスケア業界の業績向上に貢献すると考えられる。例えば、AIによる医療用画像診断は医師を補佐し医療業務を効率化する。また、オンライン診療・治療は、足が悪く通院できない高齢者や医療過疎地における診療を可能とし、増患による病院の売上向上に貢献する。

エネルギー効率(1兆3450億ドル)

スマートビルディング、デジタル技術による設備の効率的な運転、環境情報システム、グリーンデータセンター(環境に配慮し、エネルギー効率向上・省電力化に取り組む次世代データセンター)がこの分野に含まれる。特に前者2つはあらゆる業界の業績向上に貢献すると考えられる。スマートビルディングの領域では、AIが予測した電力需要のデータを活用してIoTがビルの電力を制御することで、企業はエネルギーの安定供給と省エネを達成できる。デジタル技術による設備の効率的な運転では、AIによる設備トラブルの早期発見やIoTによる設備の電力制御で、企業は設備の安定稼働と省エネを達成できる。

企業から社会に利益をもたらすSDGsテック

国連が掲げる12テーマの実現を目指すSDGsテック

SDGsテックに取り組んだ際には、SDGsコンパスの最終ステップである、レポート公開による報告まで終えるのが望ましい。サステナビリティレポートでSDGsの取り組み状況を公開し、サステナブル企業として名乗りを上げることで投資家・取引先・消費者から選ばれる企業となる。実際、ESG Index組入銘柄となっている企業のほとんどはSDGsの活動内容とその活動が目指すゴールをサステナビリティレポートで明らかにしている。参考までに、国連が発表している12テーマ[1]の達成を目指すSDGsテックがそれぞれ貢献するゴールを図2に整理している。

図2:国連が掲げる12テーマの実現を目指すSDGsテックが寄与するゴール

 

ボランティアで活用されるIT

ボランティアで活用されるITには、絶滅危惧種の調査へのデジタル技術利用、バリアフリー情報の発信、ネット募金、無償で開催されるIT教室などがある。デジタルを活用した絶滅危惧種の調査には、鳴き声の音声認識による絶滅危惧種の生息地の特定がある。生息地を特定することで保全活動を行うべき場所がわかり、「陸の豊かさも守ろう」というSDGsの15番目のゴールに貢献している。バリアフリー情報の発信は高齢者・障がい者・外国人やベビーカー利用者が過ごしやすい場所の情報を提供することで、SDGsの11番目のゴールである住み続けられるまちづくりに寄与している。ネット募金も災害復興の支援を通じて住み続けられるまちづくりに貢献しており、IT教室の無償開催はSDGsの4番目のゴールである質の高い教育を提供している。

企業の最低限の責任を果たすためのIT

企業が果たすべき責任の一つとして従業員の安全と健康の確保がある。これは社会に利益をもたらすというよりも、企業が社会に不利益を被らせないためであり、それらを実現するためにもITが活用されている。例えば、危険な作業を行う従業員に対するVRによる安全教育、コロナ禍におけるリモートワークの推進、健康診断結果やストレスチェックのWeb管理などを通じて労災を防止し、従業員の最も重要な基本的人権である生命・身体の自由を守っている。このようなガバナンスの取り組みは、「平和と公正をすべての人に」というSDGsの16番目のゴール達成に寄与している。また、これらガバナンスの取り組みを怠り、例えば従業員が過労によって精神疾患を患ったりすると、企業のレピュテーションリスクは高まり、サステナブル企業として認知されることは難しくなる。

異なる複数の業種によって数多く取り組まれているSDGsテック

10以上の業種が取り組んでいる、比較的業種を問わずに推進されているSDGsテックは7つあり、図3では事例数・業種数が多い順にまとめた。この図からSDGsテックの三つの潮流を読み取ることができる。一つ目の潮流は気候変動防止に貢献するSDGsテックだ。スマートビルディング、エコスマートな移動・輸送、デジタル技術による設備の効率的な運転を通じてCO2排出量を削減する。これらのSDGsテックは、電力の安定稼働による生産力の向上や物流における貨物の保護など、企業にとってもメリットのある取り組みとなっている。二つ目はガバナンスのためのITであり、情報セキュリティ対策やITによる従業員の安全・健康確保、ITによるダイバーシティコンテンツの提供が見られる。三つ目はIT・DXによる業務改革であり、「働きがいも経済成長も」というSDGsの8番目のゴール、「産業と技術革新の基盤をつくろう」という9番目のゴールを目指している。これらのSDGsテックは先例となる取り組みが多く、IT部門としてもSDGsテック推進の参考となりやすい。

図3:事例数・業種数が多いSDGsテック

出典:FTSE Blossom Japan Index[5]の各企業のレポート・サイトから筆者作成

 

IT部門で取り組みやすいSDGsテックの具体例

これまでに解説した3つの要件を踏まえ、IT部門で取り組みやすいSDGsテックを紹介したい。
FTSE Blossom Japan Indexの2020年12月時点の組入銘柄[5]である201社のうち152社で863件のSDGsテック事例が見られた。これらのSDGsテックを次の軸で整理したのが図4である。

  • 縦軸:業績向上への貢献度合いが高いSDGsテックほど上に位置する
  • 横軸:企業から社会に利益をもたらすSDGsテックは左に、企業から社会への不利益を防止するものは右に位置する
  • 円の大きさ・色:事例が多いSDGsテックほど大きい円で、10以上の業種によって取り組まれているものは紫色の円で示される

縦軸は要件1、横軸は要件2、円の大きさと色は要件3に対応している。

図4:ESG Index組入銘柄によるSDGsテックの全体像

出典:FTSE Blossom Japan Index[5]の各企業のレポート・サイトから筆者作成

 

図4から読み取れることとして、サステナブル企業として認知されるためにIT部門に期待されることは、これまでに実施してきた情報セキュリティ対策や従業員の安全・健康確保のためのITの仕組みで足元を固めつつ、IT・DXによる業務改革も進めながら、同時に国連が掲げる12テーマの実現を目指すSDGsテックの展開である。

このようなIT部門の役割領域の拡大で最大の課題となるのは予算確保の問題だろう。
予算承認を得るためには、まずは、これから取り組もうとしているSDGsテックがどのように市場機会を捉えようとしているのかを明らかにしなければならない。この点においては、国連が大きな市場規模を想定している12テーマの達成を目指すSDGsテックは説明がしやすい。実際、図4を見ると、国連の12テーマの実現を目指すSDGsテックの事例が圧倒的に多いことがわかる。
次に検討すべき事項は、IT部門が予算を持つべきSDGsテックである。自動車メーカーの自動運転技術といったような、企業が提供する財・サービスの根幹に関わるSDGsテックについてはIT部門よりもビジネス部門の方が予算責任を持つのに相応しいと思われる。一方、図4で紫色の円で示されるCO2排出量削減のためのスマートビルディング、エコスマートな移動・輸送、デジタル技術による設備の効率的な運転などは、オフィスや工場といった場所的な広がりも、製造や物流といったサプライチェーン上の広がりもあるため全社最適で進めるのが望ましく、IT部門が予算を確保して部門横断で推進するのが合理的だと考えられる。
最後に検討すべきは、SDGsテックの取り組みを報告するための仕組みづくりである。SDGsテックの取り組み状況をサステナビリティレポートなどで公開し、投資家・取引先・消費者にサステナビリティをアピールすることで選ばれ続ける企業を目指す。特に、投資家向けのアピールはSDGsテック向けのIT投資の合理的な説明につながりやすいと考えられる。株主への説明ができれば、社内における次年度以降の予算承認も通りやすくなるだろう。SDGsテックによって社会が享受するメリットを明らかにし、広報部門やIR担当部署を巻き込んで社会にアピールしていくのが望ましい。この点において、図4の左側に属する社会に利益をもたらすSDGsテックの方がアピールしやすい。

おわりに

本稿では、IT部門で取り組みやすいSDGsテックのテーマを紹介した。サステナブル企業と認知されるためには、これまで既に実施してきた情報セキュリティ対策やITによる従業員の安全・健康確保、IT・DXによる業務改革を継続しながら、国連が掲げる12テーマの実現を目指すSDGsテックに取り組まなければならない。IT部門による予算確保を考慮すると、推進しやすいSDGsテックはスマートビルディング、デジタル技術による設備の効率的な運転、エコスマートな移動・輸送となる。これらは、エネルギー供給・設備稼働・物流の安定化をもたらし企業の生産力を高めるだけでなく、エネルギー効率を上げてコスト削減にも寄与する。同時にCO2排出量の削減という社会課題も解決する。ESG Indexの組入銘柄である企業の多くは業種問わずこれらのSDGsテックに既に取り組んでおり、IT部門にとっても参考にしやすいと考えられる。今後、多くのIT部門がSDGsテックを支援することを期待したい。

  1. [1] United Nations ‘Better Business, Better World’ , https://sustainabledevelopment.un.org/content/documents/2399BetterBusinessBetterWorld.pdf, (参照2021年3月2日)
  2. [2] IGES ‘SDGs and Business in the ESG era: Actions by Companies and Organisations in Japan’ , https://www.iges.or.jp/en/publication_documents/pub/policyreport/en/10963/SDG4_E.pdf, (参照2021年3月2日)
  3. [3] World Economic Forum ‘Global Survey Shows 74% Are Aware of the Sustainable Development Goals’ , https://www.weforum.org/press/2019/09/global-survey-shows-74-are-aware-of-the-sustainable-development-goals/, (参照2021年3月30日)
  4. [4] Fidelity International ‘Fidelity White Paper November 2020’ , https://eumultisiteprod-live-b03cec4375574452b61bdc4e94e331e7-16cd684.s3-eu-west-1.amazonaws.com/filer_public/e1/2d/e12d7270-0fc1-4f3f-88d1-e0c73eb5aefd/putting_sustainability_to_the_test_whitepaper_edition_vol_28.pdf, (参照2021年3月2日)
  5. [5] FTSE Russel ‘FTSE Blossom Japan Index 構成銘柄リスト’ , https://content.ftserussell.com/sites/default/files/ftse_blossom_japan_index_constituent_disclosure_december_2020.pdf, (参照2021年3月2日)

CIOサポート担当

CIO(Chief Information Officer)は企業内で経営・業務に有益な貢献ができる立場にいながら、情報システムの効率化や整備を中心とした活動に重点を置かざるを得ない状況である。このような整備活動の改善・改革を支援するとともに、さらに積極的に経営に貢献する為のITの利活用を推進するCIO・情報システム組織への変革や具体化されたプロジェクトの支援、グローバルなITガバナンスの構築等、あらゆる局面でCIOをサポートする。

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