2024.03.04

日本版 War for Talent 2.0 新たな局面を迎えた人材獲得競争

【第4回】高卒採用のトレンド変化と採用活動の変革

野口 直道 

企業間の人材獲得競争は、大学新卒採用やキャリア採用だけでなく、高校新卒採用(以後、高卒採用という)においても激化している。企業各社は高卒人材の活用を通じた人材ポートフォリオの変革を目指しており、学生は自己実現の場として就職先を慎重に選択している。本稿では、現在の採用プロセスの問題点を明らかにしながら、学生と企業双方が満足するための高卒採用の姿を考察する。

1.採用市場から読み解く高卒採用の変化

高卒採用市場の現状から、企業戦略実現のための人材獲得戦略のひとつとして、高卒採用に注力する企業が増加傾向にあることが読み取れる。昨今の採用市場のトレンドとして、高卒求人数の増加と高卒離職者数の減少が同時に生じている(図1、図2)。企業が高卒求人を開始/増加させた理由としては、「事業拡大」や「若手人材の強化」といった人材ポートフォリオの変革に関するものが多くを占めている(図3)。約10年前には玉突き的な人材補充を行っていた企業も多数存在したが、現在は高卒採用を人事戦略の中核として位置付けている企業の増加が伺える。企業は、成長のための人事戦略として高卒採用をどのように活用するかを、率先して検討する必要がある。

図1:求人倍率の推移

 

図2:入社3年間の退職率の推移

 

図3:高卒採用の位置づけ

 

2.高卒採用のルールから考察する、高卒採用の問題と課題

高卒採用には「学校斡旋による就職活動」「一人一社制」「ハローワーク経由の求人」という、順守すべきルールがある。これらは学業を妨げる採用活動を禁止し、応募した学生が適正な職業選択を行えるために、行政、学校組織、主要経済団体の三者の間で設けられたもので、三者間ルールと呼ばれている。加えて、全国の都道府県ごとに運用上の細かなルールを定めている場合もあるため、これらも留意が必要だ。
前述のとおり、三者間ルールは学校教育を優先するとともに適正で公正な就職の機会を目指したものだが、実態として理想とのギャップが生じている。学生と企業の視点を踏まえ、三者間ルールから生じる問題を以下に示す。

(1) 「学校斡旋による就職活動」の問題:「公平かつ明瞭な採用が実現しにくい」
一般的に学生は、学校の就職支援室を通じて就職活動を行うため、学校と採用実績のある企業間で関係が強化されることで特定企業による学生の囲い込みが多くなる。また教員の企業理解不足により学生が誤った企業情報を認識することもあることから、公平かつ明瞭な採用が実現しない恐れがある。
 
(2) 「一人一社制」の問題:「企業や職種選択の納得度が向上しにくい」
学生は、求人へのエントリーが1社しか許可されていないため、選考を通じて促進される企業理解や職業観を醸成する機会が失われる。また、当該企業に不採用であった場合、学生は残された求人(自身が志望する企業や職種は残らないことが多い)から仕事を選択する必要があるため、自身の希望に沿わない企業に就職することになるケースも考えられる。
 
(3) 「ハローワーク経由の求人」の問題:「企業や職種の情報が不足している」
高卒採用はハローワークを経由して求人を行う必要があるが、ハローワークの求人票での企業情報は必要最小限の記載項目しかなく、学生が企業や職種の詳細な内容を知ることは困難だ。就職支援室がすべての学生個別に、企業の追加情報を送るなどのフォローをすることは難しく、また学生の調査能力が未熟な場合は、主体的に情報収集することも難しい。
 
上記の問題を踏まえ、解消すべき高卒採用の課題として「学生に提供する情報の質の向上と量の増加」「採用活動全般における公平性の確保」の2つが挙げられる。企業は学生に多様な選択肢を提供し、適切な職業選択を促進することが求められるとともに、全ての学生に平等な採用機会を提供し、選考プロセスを公平で透明性のあるものとすることが求められる(図4)。

図4:三者間ルールの問題と高卒採用の課題

 

3.採用活動の変革

では、これらの課題を解決し、学生と企業双方にとって有益な高卒採用を実現するにはどのようにすれば良いのか。筆者の採用活動の経験と企業ヒアリングから企業がとるべき打ち手は以下の通りと考える(図5)。

図5:高卒採用の課題に対する効果的な施策

 

(1) デジタルメディアを通じた情報の発信
Z世代の多くに馴染みのある、「オウンドメディア」や「SNS」等のデジタルメディアを用いて、部署ごとの一日の業務の様子や、仕事のやりがいについての社員インタビュー等、自社や仕事に関する情報を発信する。多くの企業が、自社Webサイトでの求人情報掲載や紙資料の活用といった旧来の情報発信を継続しているが、人材までリーチできていない。オウンドメディアを発展させ(ウェビナー発信、企業パンフレットとデジタル媒体の連携)、SNS等の公開メディアを活用し、デジタルマーケティングの観点から情報発信を強化していきたい。(なお、ここで意図せず学生への個別の採用活動が行われないように留意する必要がある)

(2) インターンシップの提供
学生の職業観を広げ、かつ自社への理解度を向上させるためにインターンシップを提供する。事業所の所属するハローワークやインターンシップを積極的に実施している学校と連携し、幅広い学生向けのイベントを開催することなども有効だ。自社のPR効果やイメージ向上、職場の活性化等多大なメリットがあるにも関わらず、高校生向けのインターンシップはあまり実施されていないのが現状であるため、他社と差別化するためにも早期に実施を検討するのが良いだろう。

(3) 公開求人と非公開求人の併用
多くの企業が実施する「非公開求人」に加え、広く人材を募集する「公開求人」を併用する。高卒採用の目的(採用の門戸開放)に則ることで企業ブランディングへ寄与するとともに、これまで出会うことのなかった新たな人材タイプを採用する機会にもつながる。運用の際に最も留意すべき点として、公開・非公開求人枠をあらかじめ決定しておき、応募状況の推移を計測することが挙げられる。

(4) 選考プロセスの透明化
採用試験の概要、選考の基準、望む人材像等といった選考プロセスを可能な範囲で公開する。「特定の学校にのみ選考基準を公開する」等の採用活動をとっている企業も一部あり、選考における不平等な状況があるのも実態だ。自社の選考プロセスを公開することに対して漠然とした不安を抱く企業も多いが、選考プロセスの公開が企業にとって不利に働くことはなく、むしろ面接時の学生とのやり取りがスムーズになることで限られた時間で多くの情報を共有できたり、学校が自社によりフィットする人材を推薦できたりするようになる等、多くのメリットがある。

おわりに

高卒採用市場は活況を呈しているものの、未だ多くの企業が旧来方式の延長で採用活動を行っている。企業戦略の実現に向けた人材獲得競争を勝ち抜くためにも、刻々と変化する採用市場のトレンドにいち早く対応し、学生と企業双方が幸せになれる高卒採用を実現したい。

野口 直道

人材マネジメント担当

シニアコンサルタント

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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