2020.07.21
エンタープライズアーキテクチャ(EA)を成功に導く4つのステップ
情報間の構造を明らかにし、情報の価値を高める
ERPラピッドデリバリー担当
新しいIT技術を導入するために、業務やITなどの企業資産を可視化したいという機運は高まっている。エンタープライズアーキテクチャ(EA)の取り組みを一過性のものとせず、継続的な取り組みとするために必要なステップはどのようなものか。EAの必要性や活用のポイントを踏まえて解説する。
EAの必要性
企業は、顧客要求への対応、価格競争、事業の統廃合、新たな法制度、ITの進歩、新型コロナウイルス感染症への対応など、常に事業環境の変化へ対応していく必要がある。経営者は、どんな状況下でも企業の競争優位性を獲得するため、変化に応じた迅速な意思決定が求められる。
経営戦略立案の度にヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を調査していては、迅速な意思決定はできない。必要な情報を予め最新化し、いつでも利用できるようにしておくことが意思決定のスピード向上に寄与する。意思決定の迅速さとあわせて、その品質もまた重要だ。戦略、施策、業務、データ、ITなどの企業資産が可視化され、その関連・影響がわかるように整備されていることが意思決定の質を高める。
戦略を達成するための施策は1つとは限らず、さまざまな施策が想定される。実施すれば有効と思われる施策を全て実行できる予算があるわけではないため、いかに効果的な投資を行うかという意思決定が重要となる。
そのために、EAの取り組みが必要と筆者は考える。
EAとは、企業の構造を可視化し、全体最適を行う取り組みである。そうすることにより、ビジネスの変化が影響を与える業務領域・組織はどこか、利用しているデータは何か、業務で利用するITシステムの重要度はどれくらいか、ITにかかる費用はいくらか、その内訳はどうなっているかなどを分析することができるようになる。そしてそれらの情報を用いて、投資の妥当性を確認することで、効果的な投資につながる。
また、過去に構築したシステムには、業務部門のニーズに合わせた部分最適の仕組みとなってしまっているものもあるだろう。企業の構造を可視化することにより、業務、システム、データなどのうち、全体最適の視点が欠けている箇所を発見でき、全体視点での業務プロセス改善、システム統廃合など、コスト削減施策を検討することができるようになる。
EAの成功に必要なこと
クラウド、AI、ビッグデータなどIT技術に対応するため、現状の企業資産を可視化したいというニーズは増大傾向にある。そうしたなか、既にEAに取り組んでみたが、一過性の取り組みとなり継続できていない、膨大でさまざまなドキュメントができてしまい活用できていない、維持管理ができていない、などの課題が発生してないだろうか。
そのような課題に対して必要なことは、企業構造を可視化するためのリポジトリと、そのリポジトリの維持管理業務だと筆者は考える。ここでのリポジトリとは、企業の構成要素(戦略、施策、KPI、組織、業務、データ、ITシステムなど)の定義情報、また複雑なそれらの構成要素の関係を管理するためのデータベースを指している。
では、なぜリポジトリが不可欠なのだろうか。企業のドキュメントは多種多様で、例えば戦略はPower Point、業務フローはVisio、業務記述はWord、システム情報はExcelなど、さまざまなツールを用いて作成されている。それらのドキュメント間の整合性を保つことは難しく、ある修正が入ったときに、関連する文書のどこを修正すれば良いかわからないといったことが多い。こうした課題を解決するのがリポジトリだ。リポジトリを利用して情報を一元管理することにより、One Fact One Placeを実現することができる。
例えば営業部という名称が営業本部に変更になったとする。従来であれば、それらが記載されているドキュメント(営業部の業務一覧、利用するITシステム一覧、業務ごとのITシステム一覧など)を漏れなくメンテナンスすることが必要だが、一元管理されていれば1箇所を修正することで作業が完了する。一度で関連ドキュメントすべてが整合性のとれた最新の情報となるためだ。また関係も管理されていることにより、その営業部が関連する戦略、業務、データ、ITシステムなどの影響範囲も把握することができる。従来作成していたドキュメントの情報はクエリなどのリポジトリの機能を利用し、必要な範囲で抽出し利用する。
続いて、なぜリポジトリの維持管理業務が必要なのか。この業務は、各種企業情報に変更があった場合に、それをリポジトリに反映し、情報を最新の状態に維持し続けることを指す。EAに取り組んだとしても、情報が常に最新の状態に保たれていなければ、利用されなくなってしまうからだ。例えばシステム導入プロジェクトで作成した要件定義書、業務フローなどは、関連プロジェクトで使われているだろうか。プロジェクトを実施するたびに大量のドキュメントを作成するが、プロジェクトが終わると最新化されず陳腐化してしまうことが多いのではないだろうか。企業情報のリポジトリを管理するための業務を導入し、リポジトリを最新化することで意思決定に必要となる情報が迅速に取り出せるようになる。また、プロジェクトで行う現状調査などの作業を大幅に短縮することが可能になり、プロジェクトの費用削減にもつながるという効果も期待できる。
リポジトリ導入前後 イメージ
リポジトリ化に向けた4つのステップ
企業の構成要素を重複なく一元管理し、情報の整合性を保って最新化するためには以下のステップを確実に実施することが重要だ。
1. 企業構造の整理
まずは企業構造を整理する必要がある。現存するさまざまなドキュメントを素材に、企業の構成要素(戦略、施策、KPI、組織、業務、データ、ITシステムなど)との関連を整理する。データはそのままだと価値は低いが、データに意味を与えたり、処理したりすることで情報として扱えるようになる。その意味や仕様を説明するのがメタデータだ。では、メタデータの施策、部門、課の関係はどうなっているか。施策は部門が1:1の関係で責任を負う、部門は課により1:nの関係で構成されるなど、それぞれのメタデータ間の関係(1:1、1:n、n:1など)とその関係性(責任を負う、構成される、など)をメタデータモデルとして整理する。つまりメタデータモデルとは、企業の中で扱われる情報の論理構造を整理したものなのだ。
2. リポジトリ化範囲・粒度の検討
リポジトリ化すべき範囲と粒度を検討する。全ての情報をリポジトリに入れるのではなく、さまざまな立場の関係者が、共通利用する範囲を対象としてリポジトリ化する。粒度については、管理する細かさを定義する。例えば組織ならば、部・課・グループ・役割・担当者など、どのような単位で管理するかを決める。担当者まで管理すると組織改編などで多くのメンテナンスが発生するため、ある程度合理的なところで止めておく方が管理しやすい。
3. リポジトリツールの選定
情報を格納する範囲、粒度に応じてリポジトリツールを選定する。例えばシステムのリプレースのために影響調査を行う際など、影響のある業務、組織、データなどをレポーティングできる仕組みがあると活用の幅が広がる。ITリテラシーの異なる複数部門に利用者がまたがるならば、ユーザーフレンドリーなGUIがあることも選定理由のひとつとなるだろう。また、入力した情報の整合性のチェックを支援する機能があると、品質を維持するために有用である。他にも、次のステップで述べる運用設計を支援する機能があると運用負荷を軽減できる。例えばワークフロー機能、処理の自動化などがあると望ましい。
4. 運用設計
リポジトリを維持管理するための業務、体制、運用ルールの設計をする。その情報は定期的に更新が発生するものなのか、不定期に発生するものかを識別し、日々の業務の中に位置づけることで情報の鮮度が保たれる。例えば年に1度の組織改編時は誰が変更し、承認するかなど、情報に対して担当者、承認者を明確にする。システム導入時に成果物としてリポジトリを更新する場合は、社内で定義されているシステム導入手順にリポジトリ更新の手順を反映すれば、更新漏れを防ぐことができる。また、各担当者が一元管理しているものを使用せずに新規に作成してしまうと、情報が重複してしまい、結局従来のドキュメント管理と変わらなくなってしまう。そのため、One Fact One Placeを徹底し、統制をとるためのルール、業務(承認フロー)の整備が重要となる。
自身に必要な情報は社内のどこにあるのか、そもそも必要としている情報は社内にあるのか、まずは現状を可視化することが必要だ。情報は、組み合わせることでさらに価値を向上させる。企業の財産である情報の価値を向上させるためにも、EAに取り組んでみてはどうか。
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