2020.03.16
医療・介護現場に今こそ必要な戦略的ICT投資
煩雑な事務作業を効率化し、医療・介護行為に専念するために
重信 卓哉
深刻な人手不足に悩む医療・介護現場において、ICT活用による生産性の向上は頼みの綱である。ところが、実際にICT活用の効果を実感している現場は少ない。中にはICT投資を「投資効果が見えないコスト」と断言する医療機関経営者もあり、職員の高齢化が進む介護現場はそもそもICT導入に懐疑的だ。なぜこのようなギャップが生まれるのか。真に生産性向上につながるICT活用がなされていないことが最大の問題であり、ICT投資の見直しこそが鍵と言える。
※当コンテンツは、雑誌Wedge 2018年7月号掲載のPR記事を再構成したものです。
「生産性向上」の観点からICT活用を見直す
従来から医療機関におけるICT導入の主役であった電子カルテについては、大規模病院でこそ普及が進むが、8,700ある病院全体でみれば30%程度の導入率に留まる。とはいえ、日本の電子カルテは医療安全や質の向上に寄与しているのだが、医療機関経営者の眼鏡にかなう投資効果を表せていない。医師や看護師にとって電子カルテ入力の負担は大きく、その入力作業が超過勤務の要因となっている医療現場も散見される。医療機関経営者にとっては、医療機器の更新等と比較するとICT投資は医業収益に直結しないため負担感が大きいのも事実で、ICTを活用した業務効率化や生産性向上など期待していないのが現状である。
電子カルテシステム導入・更新時こそ投資最適化の絶好のタイミング
特に生産性向上が期待できるのは、医療機関の収益の根幹をなすレセプトの請求漏れチェックや文書の作成など、これまでは医師や看護師の手間になっていた煩雑な事務作業や、院内のスタッフとの多職種間の連携業務、そして地域の医療機関との連携業務である。医療現場でも、音声認識等のAI(人工知能)、IoTセンサーやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)など新技術の導入により、業務の簡素化・自動化を実現した事例も既に生まれている。とはいえ、新規システムへの投資に二の足を踏む経営者は多い。そこで鍵となるのは、電子カルテシステム導入・更新のタイミングにおける投資の最適化だ。
すでに日本の電子カルテ製品は相当なレベルまで成熟しており、これ以上の大きなイノベーションはすぐには望めない。システムの更新に際しては、仮想化技術を用いるなど、長期的な利用を前提としてシステムのライフサイクルコストを圧縮することが有効となる。同時に、業務の総点検を行い、非効率な作業を可視化し、新技術も選択肢に加えて戦略的投資にシフトすることで、システム投資の総額を維持・抑制しながら生産性を向上させることが可能だ。
これらは、職員の高齢化が進む介護現場にも当てはまる。ICTへのアレルギーもあり、介護現場ではシステム導入がなかなか進まないが、ICTやセンサーなどのIoT技術の恩恵により明らかに生産性向上の効果は見られる。それにより要介護者へのケアに充てる時間が増えれば、職員のモチベーション向上や離職率の低下、要介護者の満足度向上にもつながる。
2018年度の医療・介護従事者数は、全就業者数の13%にあたる823万人だが、厚生労働省の推計では2040年度には全就業者の19%に相当する1,065万人が必要になる。医療・介護現場の生産性向上の鍵を握るICT活用により、従事者増だけに頼らない対策が必要ではないだろうか。
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