2021.03.09
なぜ91%のサブスクは失敗するのか?
【第1回】教科書や書籍では語られないサブスク失敗の要因
サブスクが流行する背景とその落とし穴
渡部 嵩大
Summary
- ・サブスクリプション(以下、サブスク)サービスが普及している背景には「モノ売りの限界」があり、企業は新たなビジネスモデルや購入手段の一つとして、サブスクを選択肢に入れる必要が出てきている
- ・サブスクは単なる継続課金モデルではなく、その本質は、企業が顧客との継続的な関係を構築することで、企業と顧客のメリットが合致することにある
- ・サブスクの失敗事例の詳細がメディアで語られることは少ないが、サブスク事業経験者に対して実施した調査によると、91%のサブスク事業が失敗しているという結果が出ている
サブスク普及の背景
近年、ソフトウエアや音楽・動画配信などのデジタルコンテンツにとどまらず、さまざまな業界でサブスクサービスが飛躍的に普及している。その背景には、「所有から利用へ」という消費者意識の変化や、IT・インターネットの進歩、それに伴う企業の競争要因の変化が挙げられるが、本稿では特に「モノ売りの限界」という観点から解説する。
多くの業界が成熟市場化し、スマートフォンやSNSを通じて消費者ニーズが多様化した現在、企業は消費者にとってさほど重要ではない商品・サービスの「改良」や「機能追加」などに注力している。
例えば耐久消費財である家電業界では、企業側の販売計画により毎年のように各社から新製品が発売されているが、多くの消費者は製品ごとの違いを認識していない(「A社とB社の製品の違い」や「2年前と今年のモデルの違い」を明確に理解している消費者がどれほどいるだろうか)。しかし、家電は高額で長期間利用する商品であることから、消費者は購入する際に比較検討を必要としており、これまで使用していたモノの廃棄の必要性など後処理の問題も出てくるため、手間を感じている。
音楽や動画などのデジタルコンテンツや、コーヒーや酒などの消費財においても、消費者のニーズは多様化しており、消費者は「自分に合ったモノ」を選びたいと思う一方、選択の過程自体が手間だと感じていることも確かである。
その消費者の「面倒くさい」を解消する、新しい購入手段としてサブスクがある。
企業の視点では、これまで重視してきた「モノ売り」にとらわれずに、新しい顧客接点の一つとして、サブスクというビジネスモデルを選択肢に入れることができる。
“サブスク”は単なる流行り言葉か?
日本でも「サブスク元年」から数年が経過し、音楽・動画などのメディアや、ソフトウエアなどのITサービスをはじめ、飲食やファッション、家具、家電、車、住居といったさまざまな業界でサブスクサービスが展開されるようになった。
一方で、メディアでは「サブスクという流行り言葉に踊らされるな」という論調も展開されている。
「サブスクは単なる流行り言葉か?」- 答えはNoだ。サブスクの背景や本質を正しく理解していれば、サブスクは企業が取り組むべきビジネスモデルだと理解できるだろう。しかし、サブスクについての正しい理解が欠如したまま、ただ流行を追いかけてサブスクサービスを始める事例が増加しているのも事実である。
では、サブスクの本質とは何か?サブスクとは単なる継続課金モデルではない。サブスクの本質は、顧客との継続的な関係を構築することで、企業と顧客のメリットが合致することにある。
例えば先ほどの家電業界の事例では、サブスク化することで、消費者は「気に入るかわからないが、とりあえず試してみる」という選択ができるようになり、初回利用時の心理的・金銭的なハードルを下げられるメリットがある。また、1年後に新しい機種が出ても、サービスの契約条件によっては追加支出なしで最新機種に乗り換えることができ、家電の買い替えに伴う廃棄の手間からも解放されるだろう。
コーヒーや酒、衣服など、消費者の趣味嗜好が多岐にわたる分野では、消費者ごとに「自分に合ったモノ」をレコメンドされることで、選択の手間が軽減され、消費者自身が気づいていなかった新たなモノとの出会いを得られるというメリットがある。
企業としても、以下3つのメリットがある。
- 継続的に収益が上がるため収益・利益の見通しが立てやすい
- 初回利用の心理的・金銭的なハードルが下がることで新規顧客を獲得しやすい
- 消費者から提供される趣味嗜好などのデータを活用することで、サービスの改善がしやすい
売り切り型のビジネスモデルでは顧客が「購入する」ことがゴールだったが、サブスクでは顧客が「継続的に利用する」ことが前提となるため、企業は顧客に対し、継続的に価値を提供し続ける必要があるのだ。
“サブスクの失敗”は語られない
サブスクに取り組む企業が増加する一方で、サービス開始後に会員数が伸びず悩む事例や、事業撤退に至る事例など、“失敗”といえる事例も報道されるようになった。
企業にとっては、他社の失敗事例を他山の石として、そこから学びを得ることが重要である。しかし、失敗したサブスクについて詳細が語られることは少ない。責任問題やステークホルダーとの関係があり、企業としても失敗事例は公にできないからだ。
そこで筆者らは、サブスク事業が失敗に至る要因を明らかにし、サブスク事業の成功確率を⾼めるための教訓とすべく、サブスク事業経験者に対する定量調査を⾏った。
その結果、回答者が経験したサブスク事業において、最も重要なKPI(重要業績指標)の達成率が100%に満たない事例が91%を占めた。企業において、最重要KPIが計画に満たないことは“失敗”と同義と捉え、我々は「91%のサブスク事業が失敗している」と判定した。
最重要KPIの達成率(成功度合い)
なお、我々が2020年7月に発表した「新規事業に関する実態調査」では、最重要KPI達成率が100%に満たないケースは79%だったため、サブスク事業は通常の新規事業よりも失敗する比率が高いことも判明している。
なぜ91%のサブスクは失敗するのか?
「なぜ91%のサブスクは失敗するのか?」- この問いに答えるべく、我々は定量調査から、サブスクの成否を分ける要因について成功事例と失敗事例を⽐較することで、“失敗するサブスク 17の特徴”を導き出した。
17の特徴の一つとして、「サブスクのサービス特性やKSF(Key Success Factor:重要成功要因)に対する理解が不⼗分」という項目がある。これは「サブスク事業の検討時に、サブスクのサービス特性やKSFを理解できていたか」という質問に対し、失敗層は成功層より「十分に理解できていた」と回答した割合が25.8ptも低かったことから導いた結論である。
サブスクのサービス特性やKSF(重要成功要因)に対する理解
例えば、サブスク事業の検討を進める際に、担当者が「サブスクとは継続課金モデルである」という理解しか持ち合わせていない場合、そのサブスク事業として具体的に検討すべき事項がわからず、場当たり的な検討を繰り返した結果、最終的には失敗する可能性が極めて高いと考えられる。
一方で、「サブスクは顧客に継続的に価値を提供するために、サービスリリース後もデータを活用した継続的な磨き上げが必要であり、既存事業がある場合は業務プロセスやKPIを大きく変更する必要がある」というレベルの理解まで至れば、サブスク事業の失敗を防ぐために、顧客データ取得・活用の方法検討や、人材(データサイエンティスト)確保といった具体的な対策まで講じることができる。アクションが明確になることで、そのサブスク事業の成功確率は高まるだろう。
上記から、サブスク事業を進める上で、サブスクのサービス特性やKSFに対する正しい理解が、サブスクの成否に大きな影響を与えているといえよう。
おわりに
我々はこれらの調査結果を受け、サブスク事業の成功確率を⾼めることを目的として、一般的な書籍や教科書では語られていない“実務で使える”サブスクのノウハウを今後の連載で解説していきたいと考えている。
一般的なサブスク関連の書籍や教科書、記事では、Amazon PrimeやNetflixに代表されるデジタルコンテンツに主眼が置かれているが、高額な耐久消費財や、B2B(企業向け)製品などについて言及したノウハウはあまり語られていないため、そのような領域にも言及しながら、コンサルティング経験を踏まえて複数回にわたり執筆していく。
次回以降は、サブスクの事業化を進める際に検討すべき事項を、事業化プロセスごとに解説する。第2回では初期段階の「事業企画」、第3回では「事業開発」、第4回では「リリース後」、第5回ではプロセス全般に関わる「組織」について、それぞれの成否を分けるポイントをお伝えする。
サブスクの事業化プロセスと今後の連載予定
なお、本連載で言及している調査結果は、調査レポート「サブスク事業に関する実態調査 なぜ91%のサブスクは失敗するのか?」にて整理している。コンサルティング現場での経験を踏まえ、サブスク事業の成功・失敗に関わるノウハウを提言としてまとめているため、本稿と併せて参照されたい。
これらの取り組みが企業のサブスク事業を進める一助となり、サブスクの成功確率が高まることを願っている。
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