2025.04.21

BtoBメーカーにおけるブランディング部門の活動強化ポイント

選ばれる企業・事業づくりに貢献するブランディング活動に向けて

堀内 直太郎 

同じような素材・デザインのアクセサリーであっても、ブランド名が付いていればそれだけで高い価値を感じてしまう。これはアクセサリーに限った話ではなく、どのような商材でも同様だ。「企業名や製品名を聞けば、多くの人がそれを知っていて、高い信用・信頼感を想起する」、これがブランド価値である。このようなことからも、ブランディングと言えば小売・サービス業や食品・飲料・消費財メーカーなどのBtoC企業の広告宣伝活動を思い浮かべる人が多いだろう。一方、近年では素材メーカーや部品メーカーなど、BtoBメーカーにおいてもブランディングの取り組みが増えている。こういった企業では、「採用環境が厳しさを増す中、認知度を高めて採用力を強化したい」、「サステナビリティ活動の成果をステークホルダーに周知し、企業価値を高めたい」など、「マーケティング力強化」以外の目的を掲げていることも少なくない。BtoBメーカーにおけるブランディング部門は、社内において「ブランディング活動は自分達の会社とは関係ない」と、必要性・重要性が十分に認知されていない中でこれらのミッションに取り組んでおり、どのように社内のブランディング活動に対する機運を高め活動をレベルアップして行けば良いのか試行錯誤しているようなケースも散見される。

本稿ではBtoBメーカーにおけるブランディング部門の活動強化のポイントについて解説する。

1. そもそもブランディング活動の役割とは?

ブランディング部門がマーケティング部門の一部として組織的に位置づけられている場合、売り上げ貢献がミッションとして掲げられ、マーケティング活動とブランディング活動が混同されているケースがある。ブランディング活動は、企業や事業、商品・サービスの価値をステークホルダーに伝え、ブランド価値を築くための活動である。人々の心にブランドイメージを形成することで、競争優位性やロイヤルティ向上に貢献するが、直接的な売り上げ貢献は難しい。マーケティング活動や採用活動、サステナビリティ活動に関する情報開示などのIR活動といった企業活動において、良好なイメージが広がって認知度が高まれば競争優位につながり、ロイヤルティも高まっていく。ブランディング活動は企業におけるさまざまな活動の支援機能を担っているのである(図1)。

ブランドは大きく企業ブランド(例:ファーストリテイリング社)、事業ブランド(例:ユニクロ)、商品ブランド(例:エアリズム、ヒートテック)などの階層で大別される。このうち、商品ブランドのブランド価値を高めていく活動はマーケティング活動の一部でもあるため、マーケティング活動とブランディング活動は混同されやすいのかも知れない。本稿では、企業ブランドや事業ブランドを対象として解説していく。

図1:企業におけるさまざまな活動の支援機能を担うブランディング活動

 

2. BtoBブランディング活動において特に注力すべき3つのポイント

企業活動において、BtoBブランディング活動は今までは取り組まれておらず、新たに取り組まれることなったケースが多い。その場合、BtoBブランディング部門は新部門として立ち上げていくことになる。このような中で、BtoBブランディングがテレビCMやネット広告を通じた企業・事業のイメージアップを図るような活動に終始してしまい、部門業務の中心が広告代理店との調整業務になってしまっているようなケースも見受けられる。ここではBtoBブランディング活動において、特に注力すべきポイントを紹介する。

① 関係部門と密に連携していくための業務プロセス構築

例えばブランディング部門のミッションとして、マーケティング活動や採用活動、サステナビリティ活動の情報開示などといったIR活動の支援機能が期待されている場合、事業部門や人事部門、サステナビリティ推進部門との密な連携が重要になる。そのためには各部門と連携する新たな業務プロセスの構築が必要となる。具体的には、ブランディング活動の年間計画・予算・推進体制、基本的な業務サイクル、期中に起案される案件への対応方法など、関係部門との業務プロセス構築などが挙げられる。また、組織的にブランディング部門がマーケティング部門の一部として位置づけられている場合は注意が必要だ。なぜならばブランディング活動の予算がマーケティング部門予算の中で工面されるような仕組みになっていると、売り上げ貢献に直結するマーケティング活動が優先されてしまい、ブランディング活動に予算が十分に回らなくなるからである。ブランディング部門がマーケティング部門の一部であるとしても、予算は個別に設定するような業務の仕組みにすることが望ましい。
 

② 専門人材の確保・育成

BtoBメーカーでは、BtoC企業のようにブランディングの仕事を希望して入社してくる人材は少ないのではないだろうか。このような中で、定期的なジョブローテーションにより、業務が身についたと思ったら異動になってしまうようなことは好ましくない。少人数で大きな予算を扱い、全社・事業といった大きな単位で影響を及ぼすような業務であることに鑑み、中長期的な視点から専門人材の確保・育成に注力することが望ましい。

③ 自律的な活動サイクルの構築

専門人材の確保・育成が十分でない場合、外部に専門人材を求めて広告代理店などの外部パートナーを活用していくことになるが、これが過ぎると依存体質になってしまう。予算配分やメディアミックス、社内プロジェクトの推進など、本来は自社が主導して外部パートナーを活用していくはずの業務が、逆に外部パートナー主導になってしまっているケースが散見されている。これに対して、自社の横に立って伴走してくれる実行支援会社の活用が有効だ。当社に依頼の声がかかるケースの一つでもあるが、こういった支援会社をうまく活用し、現行業務を自社主導で外部パートナーを活用していくための助言を得て、自律的な活動サイクルを構築していくための一時的な業務負担増にうまく対応していくことが重要である。

3. BtoBブランディング活動においてどのように社内の機運を高めていくか?

BtoBブランディング活動の役割が曖昧であったり、期待されるKPIが定義されていなかったりすると、費用対効果が見えづらく、社内説明や周知もしにくい。社内の機運を高めて、全社的にBtoBブランディング活動を盛り上げていくには、社外を対象としたアウターブランディング活動だけでなく、社内を対象としたインナーブランディング活動も重要だ。インナーブランディング活動では、「成果の見える化→社内への周知→ブランドを意識した企業活動」といった流れをつくっていくことが必要である。

① ブランドKPIの効果測定を行い、成果を見える化する

ブランドKPIは大きく「ブランド認知向上」と「ロイヤルティ向上」に大別することができる。ブランド認知向上に対しては「想起率」や「製品特長の認知率」といったKPIを捕捉し、ロイヤルティ向上に対しては「推奨意向」といったKPIを捕捉していくことが重要である。これらブランドKPIの効果測定を定期的に行い、成果を見える化することで社内周知が可能になる。ブランドKPIはブランド価値(ブランドエクイティ)を見える化するものであるが、「ブランド認知」や「ブランド連想」、「知覚品質」、「ブランドロイヤルティ」が高まることで、競争優位性やロイヤルティ向上に貢献している度合を把握できる。ちなみに、ブランド価値のもう一つの側面として、「出所表示機能」や「法的保護」にもつながることにも触れておきたい。ブランド価値が高まることで、人々の心に良好なブランドイメージが醸成され、類似製品や競合製品との差別化につながるのである。(図2)

図2:ブランド価値を見える化するブランドKPI

 

②インナーブランディング活動を通じて、成果を社内に周知する

➀でも触れた通り、BtoBブランディング活動の成果の見える化によって、社内に周知していくことができる。マーケティング活動や採用活動、サステナビリティ活動の情報開示などのIR活動などを通じ、良好なイメージが広がり認知度が高まれば(=ブランドイメージが向上すれば)競争優位につながり、ロイヤルティも高まっていくという支援機能としての貢献状況を共有できるのである。インナーブランディング活動の手段としては、社内ポータルへの掲載、社内報や社内SNSを通じた発信、社内研修やワークショップの開催など、さまざまな方法がある。BtoBメーカーにおいては社内でブランディング活動の必要性・重要性が十分に認知されていない可能性が推察されるため、認知を促し社内の機運をしっかりと高めていくことが重要である。

③ブランドを意識した企業活動を行う

社内でブランディング活動の必要性・重要性が認知されてくれば、全社的にBtoBブランディング活動を盛り上げていくためにも社内研修やワークショップの開催を推奨したい。社員一人ひとりがブランドの価値や理念を理解して共感できれば、自然と各自がブランディング活動で訴求していることを体現し、「日々の業務とブランディング活動が相互に作用」するのである。(図3)

図3:相互に作用する企業活動とブランディング活動

 

4. おわりに

ブランディング活動は一朝一夕で実現できるものではない。前述したようにBtoBメーカーにおいては、そもそも社内でブランディング活動の必要性・重要性が十分に認知されていないことが少なくないため、ハードルはより高いと考えられる。部門業務の中心が広告代理店などの外部パートナーとの調整業務になっていることを問題と認識していても、現状を許容している企業も少なくない。
 
自社のブランディング部門としてのミッションは何か? テレビCMやネット広告を通じて企業・事業のイメージアップを図るような活動レベルに収めることもできるし、ブランド価値向上を通じてさまざまな企業活動の支援機能の役割を担うこともできる。ぜひ本稿を参考に、BtoBブランディング活動のさらなる強化を体現していってほしい。

堀内 直太郎

マーケティング戦略/営業改革担当

シニアマネージャー

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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