2025.04.14

サプライヤーマネジメントの進化

「サプライヤーマネジメント」から「戦略的サプライヤーマネジメント」への発展

野町 直弘 

昨今、供給不足やサプライチェーン分断、地政学リスクの顕在化などにより企業を取り巻く環境が大きく変わり、サプライヤーとの関係性構築やリスクマネジメントの重要性が高まっている。そこで、サプライヤーマネジメントを進化させた「戦略的サプライヤーマネジメント」が重要視されるようになった。「戦略的サプライヤーマネジメント」では、「サプライヤー関連情報の全社一元管理」と「双方向のコミュニケーション強化」、「サプライチェーン全体に対する関係性構築」の3つが求められる。
しかし近年、「戦略的サプライヤーマネジメント」だけでは不十分な時代になりつつある。サプライヤーマネジメントとは別に、自社のバリューチェーンの最適化という点から「バーチカルチェーンマネジメント」が必要となってきた。「バーチカルチェーンマネジメント」とは、自社の製品・サービスの川上から川下までを広く捉え、競争力を強化するための事業再設計を行うものである。
サプライヤーマネジメントは日々進化しており、「戦略的サプライヤーマネジメント」から「バーチカルチェーンマネジメントの最適化」へと進むことで、企業における外部資源取り込みの最適化が求められるようになり、それが企業の競争力の源泉となってきた。
ここでは、このようなサプライヤーマネジメントの進化について、筆者の見解を示していく。

1. サプライヤーマネジメントの目的と構成

調達購買部門の主要な役割・機能とは何か。

筆者がこの質問に答えるとしたら、「サプライヤーとの関係性づくり」、「最高の調達基盤づくり」と即答する。「最高の調達基盤」とは、「強固な相互信頼関係を長期継続できる仕入先群の集まり(基盤)」と定義できる。調達購買部門の役割はサプライヤーのQCD最適化であり、中でも「コスト削減」と言われてきたが、コスト削減はあくまでも結果であり、優れたサプライヤーと取引ができれば自然とコスト競争力はつく。つまりサプライヤーマネジメントこそ調達購買部門が果たすべき中心となる役割・機能と言える。

筆者は10年程前から、調達購買部門はイノベーション調達の実現を目指すべきであり、その要素は、カテゴリーマネジメント、ユーザーマネジメント、サプライヤーマネジメントの連携であると提唱していた。ただ、当時はサプライヤーマネジメントという概念はあまり普及しておらず、「サプライヤーマネジメント」ニアリーイコール「サプライヤー評価」と考えられており、多くの企業の調達購買部門の関心はどのような評価をすればよいかという点にあった。

しかし、サプライヤー評価はあくまでも手段であり目的ではない。目的は評価の高いサプライヤーを特定して関係性を構築することや、評価は低いが、関係性が強く育成していきたいサプライヤーに対して改善を図り、QCDを向上させることだ。筆者は、サプライヤーマネジメントはSRM(サプライヤーリレーションシップマネジメント)、SPM(サプライヤーパフォーマンスマネジメント)、SIM(サプライヤーインフォメーションマネジメント)、SRM2(サプライヤーリスクマネジメント)の4つで構成されると考える。(図1)

図1:サプライヤーマネジメントの構成

 

SRMはサプライヤー戦略であり、購入品目別に、SPMのサプライヤー評価やSIMで管理するサプライヤー情報を活用して策定する。それらの情報に基づき、評価と関係性(姿勢)の2軸でポジショニングし、今後の方針を決定するのがサプライヤー戦略だ。関係性が強く評価が低いサプライヤーに対しては評価内容をフィードバックし、評価を高め、継続的に評価状況をレビューしていく。一方で、評価は高いが関係性が弱いサプライヤーに対しては関係性強化のための施策を検討・実行しなければならない。

最後のSRM2はサプライヤーに関するリスクマネジメントだ。リスクは、購入品目に依存するリスクと購買プロセスに内在するリスク(プロセス依存リスク)に分類される。代表的なリスクである供給リスクは購入品目に依存するリスクであり、品目/サプライヤーごとにリスクマネジメントを進めなければならない。こうした一連のマネジメントによってサプライヤー戦略を実現し、QCDの改善を図っていくのがサプライヤーマネジメントである。

2. 従来の「サプライヤーマネジメント」の限界と「戦略的サプライヤーマネジメント」

従来のサプライヤーマネジメントの進め方は上述の通りだが、そこには課題もある。どちらかというとバイヤー企業がサプライヤーを一方的に管理・統制する形の取り組みであること、また企業としての取り組みではなく調達購買部門やバイヤー個人としての取り組みであったことなどだ。例えば、サプライヤー評価はISOの規定に沿って事業や工場ごとに進めており、形骸的に終わっていることが多く、全社としての情報収集、活用ができている企業は少数であった。

一方で、最近の企業を取り巻く環境は大きく変わってきた。2021年の春頃から始まった供給不足、サプライチェーン分断、地政学リスクの顕在化などさまざまな課題が生じている。これらの環境変化によって、重要なサプライヤーを特定して供給を切らさないような関係性の構築、場合によっては安全在庫を持つ、長期発注を行うなどの施策が必要になってきたのだ。また構造的には、川上サプライヤーが相対的に力を持つようになり、こうした力関係の変化の中、サプライヤーが売り先を選択するような時代になりつつある。また、サプライヤーの事業目的や価値観も変化している。カーボンニュートラルやSDGs、ESG投資、人権デュー・デリジェンス(人権DD)などの取り組みが盛んになっており、このように相対的に力を持ち始めた川上側のサプライヤーが、自らの価値観にあった顧客を選別する時代になってきているのだ。(図2)

図2:企業を取り巻く環境変化

 

こうした環境変化によって、SIMやSPMで収集すべき情報の範囲は広がってきている。具体的には、先に述べたようなカーボンニュートラル、SDGs、人権DDへの取り組み状況、BCP情報、紛争鉱物対応情報だけでなく、バイヤー企業に対する関係性(姿勢)やパーパスの共有度合などが挙げられる。また従来は収集していなかったEcoVadis(企業のサステナビリティパフォーマンスを評価する国際的な評価機関)などの外部情報の収集ニーズも高まっている。そして、調達購買部門やバイヤー個人としての評価ではなく、全社的観点でデータを効率的に収集・一元管理し、情報収集・分析・活用を進める必要性が高まっているのだ。

このように、従来のサプライヤーマネジメントの取り組みだけでは不足しており、より進んだ「戦略的サプライヤーマネジメント」が求められている。

3. 「戦略的サプライヤーマネジメント」とその進め方

「戦略的サプライヤーマネジメント」とは、従来のサプライヤーマネジメントを進化させた概念である。従来のサプライヤーマネジメントから3つの点で進化している。(図3)

図3:戦略的サプライヤーマネジメントとは

 

1点目は、サプライヤー関連情報を全社で一元管理し、活用していくといった仕組みづくりにおけるものだ。従来は、サプライヤーの基本情報や評価情報などはISO規格取得のために、事業ごと、工場ごとに形式的に収集管理していた企業がほとんどであった。しかし、その収集する情報の内容や、運用方法も変えていく必要がある。

情報の種類は、さまざまなサプライヤーのアンケート情報や、CSR関連情報、カーボンニュートラルにつながるGHG排出量などの環境対応状況、サプライヤーの工場や倉庫立地などのBCP情報、紛争鉱物対応の情報、反社アンケート情報、技術/製品情報、「EcoVadis」などの外部情報など、収集管理したい情報が多岐にわたっている。また、昨今マストで収集すべき情報として、サプライヤーが自社をどのように捉えているかという姿勢(パーパス共有度)の情報も挙げられる。

収集しなければならない情報が多様化しているだけでなく、これらのサプライヤー関連情報はデータベースで一元管理し、サプライヤー戦略の策定・実行につなげなければ意味がない。このような運用方法、情報活用方法の進化も新しいサプライヤーマネジメントである「戦略的サプライヤーマネジメント」に求められる要件である。(図4)

図4:全社でのサプライヤーマネジメントの仕組みづくり

 

2点目は、「サプライチェーン全体のマネジメント」である。従来は、直接取引があるサプライヤーとの関係性強化や評価改善などが求められていたが、昨今はより川上のサプライヤーがどこかを把握し、それらのサプライヤーへの影響力を強化していく必要がある。また、バリューチェーン(VC)全体でパワーゲームが始まっているため、サプライチェーン全体の構造を知り、影響力を持つプレイヤーへの働きかけや関係性強化も必要となっている。このようにサプライチェーン全体をマネジメントすることが「戦略的サプライヤーマネジメント」に求められる2つ目の要件だ。(図5)

図5:サプライチェーン全体のマネジメント

 

3点目は、「サプライヤーとの関係性強化」である。例えば、関係性を強化すべきサプライヤーとのコミュニケーションの取り方における改革が挙げられる。ポイントは双方向でのコミュニケーション強化で、これが従来のサプライヤーマネジメントと異なる点だ。従来のサプライヤーマネジメントは、サプライヤーをマネジメントし、改善を促すといった一方的な取り組みがイメージされる。これに対し、この改革はコミュニケーションの「方法」「内容」「機会」の改革を行うことである。

コミュニケーション「方法」の改善でまず挙げられるのは、ビジネスレビューミーティングだ。ビジネスレビューミーティングとは、サプライヤーの課題だけでなくバイヤー企業の課題も明確にし、課題を共有した上で解決策検討から改善のフォローまでを定期的に行っていくミーティングである。理想としては、購買本部長、営業本部長などのマネジメントが定期的にコミュニケーションを取り、改善に取り組むべきだ。(図6)

図6:サプライヤーとの関係性強化のためのビジネスレビューミーティング

 

「方法」の改善におけるもう一つの例としては、VoSが挙げられる。VoSとはVoice of Supplierの略であり、サプライヤーのニーズや期待をヒアリングする活動だ。VoSはコンサルタントなどの第三者が実施することで本音を引き出すことができる。これにより、共通の改善課題などをヒアリングするだけでなく、競合他社との比較から分かる課題や自社に対するサプライヤーの姿勢を理解することにもつなげられる。

次に、コミュニケーション「内容」の適正化だ。従来は、自社の製品戦略や生産計画などの情報共有が中心だった。しかし、これらオペレーション情報の共有だけでなく、事業目的(パーパス)やビジョンの共有を図り、製品ロードマップやサプライヤーのビジネスチャンスを共有するなど、サプライヤーを惹きつける工夫についての議論を中心とすることが重要となる。

最後はコミュニケーション「機会」の適正化である。これは、頻度の適正化(機会を増やすこと)に加え、購買部門と営業部門間だけでなく、例えば開発部門や生産技術部門などで、サプライヤー・バイヤー両社の各部署間のコミュニケーションルートを構築することが機会適正化につながる。また、コミュニケーション実施においても、なるべくサプライヤー訪問を行い、必要に応じてサプライヤーの工場視察を絡めることが重要なポイントとなる。

4. おわりに

以上、従来型サプライヤーマネジメントの限界と、戦略的サプライヤーマネジメントの進め方を具体例とともに解説した。以下ホワイトペーパーでは、戦略的サプライヤーマネジメントの事例を紹介する。また、調達購買部門主導で企業の競争力強化を実現する有効なアプローチである「バーチカルチェーンマネジメント」の概念と事例について解説を進める。

是非引き続き、ホワイトペーパーを参照してほしい。

野町 直弘

調達購買・BPO担当

マスタープリンシパル

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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