2025.03.14

管理会計において金利を考慮すべき理由とは

金利がある事業環境での管理会計のあるべき姿

栗城 徹也 

昨今の報道で金利の話題が増えている。これは中央銀行である日本銀行が政策金利を引き上げる方向で動き、実際に利上げも行われているからであろう。金利の上昇は会社での業務ではなく、日常生活の中で実感している読者が多いのではないだろうか。分かりやすい例で言えば住宅購入資金を調達するために住宅ローンを組む際のローン金利の上昇や、余剰資金を銀行に預けた際に付与される預金の金利上昇が挙げられる。一方、金利の上昇は日常生活だけではなく、企業経営にも大きな影響を及ぼすことを理解する必要がある。会社運営はすなわち資金を調達、運用して利益を積み上げていくことであり、金利とはまさに資金の調達にかかる費用であるからだ。

本稿では企業の経営に重要な影響を与えうる金利に焦点を当て、企業経営における管理会計上、どのような場面で金利を意識すべきかを考察していきたい。

1. 金利について考える前にーー社外金利と社内金利の識別

金利を企業経営で考慮しなければならないのは上記で述べた通りであるが、具体的なポイントを見ていく前に、まず焦点となる金利の定義を明確にする。本稿においては金利を「社外金利」と「社内金利」に分け、まずそれぞれがどのような目的と性質を持つものであるかを識別していくこととする。
 
(1)社外金利
社外金利とは、ここでは社外から資金を調達する際にかかる金利と考える。代表的なものでは、金融機関から借り入れる際の借入金に伴う金利や、社債に付与する金利などが分かりやすいであろう(左記は他人資本に関する金利であるが、それ以外に株式発行による自己資本コストや、加重平均資本コスト(WACC:Weighted Average Cost of Capital)なども広義の金利とみなすこともできよう)。社外からの資金調達には、貸し手自身のコストや借り手に内在するリスクなども考慮した金利が費用として発生する。社外金利は資金の貸し手の利益確保を目的に設定されるもので、借り手自身の意思が反映されることはない。その意味で次に述べる社内金利とは設定目的が大きく異なることに留意していただきたい。
 
(2)社内金利
社内金利とは、会社の事業運営で得られる利益で会社が負担する金利を賄えるよう、各部門・社員に動機づけを行うために、社内ルールとして設定する金利である。社内金利をどの程度に設定するのかは会社の裁量次第ではあるが、基本的には社外金利を参考指標として決められる。社内金利に関して統一的な指標がある訳ではなく、「もし外部から資金を調達したら」という仮定に基づき、社外の金利を参考にして設定すべきだからである。形式的に資金の源泉が自己資金の場合も金利がかかるとみなし、第三者からの借り入れである場合は社外金利がかかる。どちらの金利にせよ、資金を調達する際にかかる費用であるという性質は変わらないことが理由である。
 
上記の通り、社外金利と社内金利では目的がそれぞれ異なる。本稿では企業経営における金利の管理方法となる社内金利に焦点を当て、社内金利を考慮すべき場面を考察していきたい。社内金利は、管理会計上の金利であり無視することも可能ではある。しかし、企業経営をするうえで資金を調達するためには金利という費用がかかり、その金利負担を最小限に抑えつつ金利以上の利益を上げ続ける取り組みを行うことは、効率経営に直結する重要なファクターであると筆者は考える。
 
また、本稿執筆時点においては日本円の金利が上昇傾向にあり、社外金利が上昇していく事業環境において社内での資金だけゼロコストで調達できるという考え方は、資金投下の結果に求められるリターンも緩くなり事業の成長が妨げられる恐れもあるだろう。したがって、本稿では社内金利を理解し活用することで金利を意識した経営の重要性を確認し、経営管理に役立てていただくことを目的とする次第である。

2. 事業経営にあたって金利を考慮すべき場面とは

ここでは製造業を営む会社を前提として、社内金利を考慮すべき事業活動について考察する。結論から述べると、資金が在庫や設備、売掛債権といった別の資産として社内に留まっている場合、その資産に対して金利を掛けて業績管理を行うというものである。
 
なぜ資金が別の資産形態で滞留している場合に金利をかける必要があるのか、以下詳述する。
 
(1)棚卸資産
まず分かりやすい例としては棚卸資産(いわゆる在庫)が挙げられる。棚卸資産は勘定科目としては製品や商品、原材料などで計上されるが、これらは対価や各種経費を支払ったうえで計上されるため、資金が形を変えたものといえる。資金が何らかの棚卸資産に形を変えそのままの状態で存在しているということは、その棚卸資産の購入や製造に要した費用を回収できていないことを意味し、投下した資金が拘束されるため金利を負担する必要がある。別の表現をすれば、資金が棚卸資産に拘束されている分だけ運転資金を別途調達しなければならず、その資金調達にかかる金利を負担すると考えると理解しやすいだろう。
 
このように考える前提として、棚卸資産は一瞬たりとも滞留することなく、購入あるいは完成次第即刻売却され、現金として回収されることが理想的であり、社内金利の設計思想としては極端に言えばゼロ在庫を目指すものであることを念頭に置く必要がある。棚卸資産が金額的に膨張すればするほど負担すべき金利も増加し、当該事業損益が圧迫されることになるため、事業損益に責任を持つ者にとって社内金利は棚卸資産を圧縮する方向に動機付けることになり、結果として会社の資金繰りが良くなる方向へ誘導できる。もっとも、棚卸資産にかかる金利は在庫水準次第であるため、事業損益の責任者だけではなく製造部門や営業部門の担当者も意識すべき点である。
 
なお、棚卸資産については金利を考慮する以外にも留意すべき点があるため、前回記載の拙著記事(財務会計部門も知っておくべき在庫戦略策定のポイントとは)を参照していただければ幸いである。
 
(2)固定資産
固定資産も社内金利を負担すべき項目である。特に製造業に属する会社の場合、製造に必要な設備(機械装置等)や場所(建物等)に多額の費用がかかるケースが多く、固定資産にかかる金利は無視できない大きさだ。一般的に固定資産は購入時に多額の資金が必要となるが、一度稼働すれば基本的には資金流出は発生しない(修繕費等は除く)。それゆえ、稼働してから事業損益に含まれる固定資産のコストは減価償却費に限られることが多い。
 
一方購入に要した資金は、固定資産が稼働したからと言って即時に、あるいは単年度で回収できる訳ではない。計画通りにいけば、設備投資をする際に試算した期間で回収されることが通常であろう。ここで問題なのは、例えばその期間が5年だと仮定した場合、回収しきるまでは未回収部分について貸借対照表上は固定資産として文字通り固定され、何ら収益を生まないという点である。別の言い方をすれば、未回収部分についてはそこに使った資金の穴埋めをすべく、未回収部分に対応する金額を外部から調達する必要が出てくる。
 
外部報告目的の財務諸表を作るだけであれば未回収部分を固定資産として計上し、減価償却費を製造原価に含めるだけで問題ないだろうが、長期間にわたり固定化された資金について費用を認識しないことは経営上合理性を欠く。ましてや昨今の金利が上昇していく局面においてはなおさらであり、固定資産の未回収部分に関する社内金利の負担は管理会計上認識すべきである。なお、この固定資産の未回収部分の金額については簿価と考えていただいて差し支えない。
 
(3)設備投資の経済性評価
設備投資もまた金利の概念を考慮する必要があることは、上記(2)の記述からご理解いただけると思う。設備投資とは、文字通り設備=有形固定資産(あるいは無形資産)を指し、投下した金額がそのまま長期間固定資産として拘束されることから、設備投資の回収期間を試算する際には金利を考慮することが重要なポイントとなる。固定資産について金利を考慮すべき理由についてはすでに述べた通りであるので、ここでは設備投資の経済性評価の際に金利を織り込む手法について考察する。
 
設備投資の回収計算においてもっとも単純なのは、回収が完了するまで投下した金額に対して金利をかけ続ける手法である。これは投資する資金を全て借入金で賄うと想定し、回収した利益・キャッシュを原資として回収完了時に一括返済をすると想定すればわかりやすい。この手法は実務上も対応しやすい反面、回収が完了した部分についても全額回収が完了するまで金利がかかり続けるため、保守的な手法と言える。
 
もう一方は未回収部分、つまり簿価に対して金利を掛ける手法も考えられる。これは上記(2)で紹介した手法と同じであり、償却費として計上された分は製品価格に含めて回収されたものとみなし、残存簿価に対して金利を掛けていくという手法である。簿価は年々減少していくことから金利も同様に減少し、実態に即した手法といえるが、変動する簿価に合わせて金利を計算する必要があることに留意すべきである。

(4)売掛債権
債権も金利負担が生じる。ここでは売掛債権を念頭に考えてみよう。売掛債権は棚卸資産が形を変えたものと考えると分かりやすい。棚卸資産を販売し、売り上げた分の金額を請求する権利として売掛金が計上される。正確には棚卸資産金額=売掛債権金額ではないのだが、両者は資金の塊である点では全く同じ性質を持っている。そして、売掛債権となった後、実際に回収して現金化するまではその分外部から事業資金を調達してこなければならない点も棚卸資産と同じであり、売掛債権もまた資金調達費用である金利を負担する必要があると言えるだろう。
 
棚卸資産の箇所で述べたことと同じであるが、売掛債権に対する金利の賦課という行為は、販売後は即刻債権を回収し、現金化することが理想的であるという前提に立脚したものである。つまり、事業責任者の立場からすれば売掛債権が計上されたまま滞留していると、回収されるまではその分金利を負担し続けることになり、一刻も早く売掛債権を回収しようという動機付けがなされる。なお、売掛債権を管轄するのは営業部門であるため、事業損益の責任者だけではなく営業部門の担当者も留意すべきだ。
 
債権の場合は棚卸資産と違い実物・モノが存在する訳ではなく、あくまでキャッシュを請求する権利に過ぎないため、経年劣化したことを理由とする評価損の計上が行われることはない。このことは滞留している売掛債権に対して早期回収の必要性を感じにくくする要因の一つであるが、一方で放置すれば自社の資金繰りに悪影響を与えるだけではなく、貸し倒れリスクが出てくることも事実であろう。より早期かつ確実に債権を回収し、次のビジネスサイクルに資金を投じるためにも、売掛債権に対する金利の賦課は重要な役割を果たすものと筆者は考える。
 
なお売掛債権の金利を計算する際は、仕入債務の支払いまでの期間も考慮し、両者を相殺することも忘れないようにしたい。仕入と販売は営業活動にとって対となる重要な要素であることに加え、仕入債務の支払いまでの期間を確保することは社内資金の厚みを確保し、資金を調達するという側面もあるからである。

3. 事業活動の効率化・高速化に役立つ社内金利の考え方

上記のように、棚卸資産・固定資産・売掛債権は資金の投下によって生み出される資産であるが、現金として回収されるまでの期間は資金を拘束する。それゆえに拘束している金額・期間に応じて金利を負担するという考え方が必要であることは納得いただけたかと思う。この金利については、該当する資産を管轄する部門の業績評価に使用し、管理会計に織り込んでいくべきであるというのが筆者の考えである(なお、管理会計に織り込む際に金利を営業損益と営業外損益のどちらで認識するかは、完全に管理会計上の損益管理技術ということもあり各社の個別事情に応じて判断して構わない)。
 
本稿で紹介した社内金利というものは、当然のことながらいわゆる制度会計では一切考慮されない(すべきではない)ものだ。しかし、事業活動に必要な資産の保持に金利を掛けることは、「より低コスト設備での生産」「より少ない在庫」「より早い現金化」という事業活動の効率化、高速化を実現する方向へ誘導するという大きなメリットがあり、結果として制度会計での各種財務諸表に現れる各種数値の改善を促進するものと考える。制度会計の結果を改善するための手法としての社内金利の活用は、まさに管理会計の役割そのものと言えるだろう。

4. おわりに

今後金利(社外金利)がどこまで上昇していくかは誰も予測はできないが、少なくとも長期にわたって極めて低位で推移していた金利が上昇方向へ動き出したことは事実である。また、本稿では金利の上昇に伴い留意すべき点として社内金利の概念と活用すべき場面を紹介したが、ここで紹介した社内金利の考え方は、仮に金利が低下方向へ動いていくような状況においても競争力の維持向上に役立つ考えであることは言うまでもない。「より低コスト設備での生産」「より少ない在庫」「より早い現金化」を目指すことは、金利の動向に関わらず強靭な企業体質を構築するために必須の要素であるからである。
 
本稿が日々の企業運営の一助となれば幸いである。

栗城 徹也

ファイナンシャルマネジメント担当

マネージャー

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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