2024.08.22

カーボンニュートラル実現のための“グリーンofデジタル”

デジタル産業のグリーン化を進める重要性とそれを支える法制度

中川 日菜子 

近年、「カーボンニュートラル」と「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が都市経営や企業経営の主要トレンドとなっている。
カーボンニュートラルは、温室効果ガス(GHG)の排出量と吸収量・除去量が均衡して実質ゼロになる状態を指し、2020年10月に日本は2050年までのカーボンニュートラル実現を宣言した。他方DXはIT技術を用いた社会・ビジネスの変革を意味し、デジタル技術の進化がこれを支えている。一見関連は薄いように思えるが、カーボンニュートラルとDXは密接に関係している。
本稿では、両者の関係性と「グリーンofデジタル(デジタル機器・産業の省エネ・グリーン化)」が重要視されている背景、および2024年4月からデータセンター業が対象となり、今後ネットワークセンター業へも拡大する予定である省エネ法「ベンチマーク制度」といった政策動向や、企業がGXを推進するにあたり勘案すべきポイントなどについて解説する。

カーボンニュートラルとDXの関係性

2050年カーボンニュートラル実現の宣言を受け策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(以下、グリーン成長戦略)は、産業政策・エネルギー政策の両面から14の重要分野を定めており、半導体・情報通信分野もその1つである。
本戦略では「グリーン成長戦略を支えるのは、強靭なデジタルインフラであり、グリーンとデジタルは、車の両輪である」と定め、カーボンニュートラル実現に向けてデジタル技術の必要性を示している。また「デジタル化によるエネルギー需要の効率化・省CO2化」を「グリーンbyデジタル」と定義し、デジタル化の核となるデータセンターの国内立地・最適配置の推進を掲げ、デジタル産業の後押しをする考えである。

一方で、「グリーン of デジタル」という概念も存在する。「グリーンbyデジタル」との違いは、「グリーンbyデジタル」がデジタル技術を活用して省エネ・省CO2の実現を目指すものであるのに対し、「グリーンofデジタル」は電気機器やデジタルインフラの省エネ化・省CO2化を目指すものだ。今回は、「グリーンofデジタル」を主題として解説していく。

グリーンofデジタルが重要視される背景

先述のとおり、DXはカーボンニュートラル実現に不可欠であるが、DXの進展によりIoTデバイスやAI需要の増加に比例する形で、データ処理に必要な電力消費量の増加が懸念される。例えば、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)によれば、国内のデータセンターおよびネットワークの電力消費量は今後も増加する見込みである(表1)。

表1:国内におけるデータセンター・ネットワークの消費電力見通し(単位:億kWh)*

国立研究開発法人科学技術振興機構「情報化社会の進展がエネルギー消費に耐える影響Vol.4(2022年2月)[1], Vol.5(2023年2月)[2]」を基にクニエ作成

データセンターやネットワークにおける電力消費量の増加はデジタル産業自体だけではなく、ユーザー企業にも影響を与える。なぜならば、現在多くの企業が自社のGHG排出量についてScope3*を含めたネットゼロ(GHG排出量の実質ゼロ化)を目指しているからだ。Scope3とはサプライチェーン上で発生する自社以外GHG排出量を指す。データセンターによる電力消費量の増加およびそれに伴うCO2排出量の増加は、ネットゼロを目指す企業のScope3排出量を増加させる恐れがある。このような事情から、今後ユーザー企業からのグリーンofデジタルの要求は高まることが想定される。
*事業のサプライチェーンにおけるGHG排出量の捉え方。
Scope1:自社が直接排出するGHG(燃料の燃焼や製品製造など)
Scope2:自社が間接排出するGHG(他社から供給されたエネルギー使用)
Scope3:サプライチェーン上で発生する自社以外のGHG

実際に、データセンター利用によるCO2排出量の影響が大きいと想定される金融機関ではデータセンターへの再エネ導入を始めている。

  • 三菱UFJ銀行
    2022年3月、データセンターの電力を太陽光発電(最大出力2,000kW)で賄うことを発表
  • みずほ銀行
    2022年7月、自社が所有・賃借する大規模7物件におけるデータセンターについて、使用電力を再生可能エネルギー由来に切り替えることを発表
  • 三井住友銀行
    ネットゼロ実現に向け、データセンターの再エネ化に取り組むことを発表

省エネ法ベンチマーク制度の対象拡大

グリーンofデジタルの一施策として、省エネ法*に基づくベンチマーク制度が存在する。
ベンチマーク制度では対象事業における年間のエネルギー使用量が1,500kl(原油換算値)以上の事業者を対象とし、業種共通のベンチマーク指標を設け目指すべき省エネ水準を定めることで、他事業者との比較による省エネ促進を目指している。ベンチマーク指標は、当該事業で使用するエネルギーの大部分をカバーできることや定量的に測定可能であること、省エネの状況を正しく示すこと、分かりやすいことなどを観点に設定される。また省エネ水準は、国内事業者のうち上位1~2割が達成可能な水準が設定される。
*正式名称は「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」
 
2022年4月より対象として新たにデータセンター業*が追加となり、ベンチマーク指標はPUE(データセンター施設全体のエネルギー使用量÷IT機器のエネルギー使用量)の目指すべき水準は1.4以下と設定された。データセンターのPUEは一般的に2.0~3.0が多いことからも、この1.4以下という数値は非常に高い基準と言える。
制度の対象事業者は「建物・付帯設備に関するエネルギー管理権限を有する事業者(DC in DC等でエネルギー管理権限を一部保有する場合も含む)」であり、対象事業所は事業用途のデータセンター(他社への情報サービス提供により事業収益を得ているデータセンター)と定められている。
*ベンチマーク制度におけるデータセンター業は、「データセンター(データの処理を目的とした、コンピュータやデータ通信のための装置を設置および運用することに特化した建物または室)を運営(または利用)し、情報処理に係る設備又は機能の一部を提供する事業者」を指す。

さらに従前よりネットワークセンター業への適用も検討が進められている。経済産業省公開の最新資料によれば、ベンチマーク指標については前述のPUEと基地局エネルギー使用量の2つが候補として挙げられている。主な違いは対象に基地局を含むか含まないかという点で、それぞれに省エネ状況の可視化精度や計測方法などにおいてメリット・デメリットがある(図1)。

図1:ネットワークセンター業のベンチマーク指標案

経済産業省資源エネルギー庁「令和5年度第1回工場等判断基準WG省エネ法に関する措置について」[3]を基にクニエ作成

今後、ベンチマーク指標の対象(対象の分類・選定、基地局の取り扱い等)、ベンチマーク指標の算出方法(具体的な計算式、計測可能性等)、目指すべき水準(上位1~2割が達成できる水準はどの程度かなど)が検討される予定である。

グリーンofデジタル実現のステップとポイント

デジタル産業のグリーンofデジタル実現に向けては、大きく4つのステップでアプローチが必要になる(図2)。
 
STEP1:目標設定
自社の製造・販売するデジタル製品やサービスのグリーン化目標を設定する。目標の指標としては一般的に、GHG排出量や再エネ導入量、消費電力削減量が設定されることが多い。各目標の設定時には、国内外の政策動向や業界トップランナー企業の動向など外部環境分析を実施し考慮することがポイントとなる。

STEP2:現状把握
現時点で目標に対してどの程度足りていないかを把握し、実現するための課題などを洗い出す。算定する際は製品・サービスにおけるサプライチェーンの対象範囲を明確化させておく必要がある。対象範囲の明確化に際しては、ISOやGHGプロトコルなど複数の国際ルールが存在する中で、どのルールを参照するかも重要な検討ポイントとなる。

STEP3:計画策定
目標と現状のギャップを基に、各目標達成に向けたKPIの設定と施策の策定を行う。現在、一般的な目標年度は2050年が採用されており長期的な取り組みとなるため、目標達成までを逆算しながら中間目標を設定するケースが多い。なお、施策の策定にあたってはその実現性も重要となるため、実現に向けて利用できる補助制度なども並行して収集することがポイントとなる。本稿では代表的な補助制度を後述する。

STEP4:施策実行
策定した計画を基に施策を実行する。製品・サービスによっては社内だけではなく、社外に対しても協力を要請することになるため、密な調整・連携が重要だ。

図2:グリーンofデジタル実現にむけたステップ・ポイント

 

グリーンofデジタル実現のための補助制度

STEP3で示したとおり、グリーンofデジタルに取り組む企業を支援するための各種補助制度の活用も重要である。対象事業の制限や補助の上限額などは存在するものの、自社の事業が該当する場合はこのような制度を積極的に活用したい。
ここでは代表的な制度として、環境省と新エネルギー・産業技術総合開発機構の制度を簡単に紹介する。

環境省「データセンターのゼロエミッション化・レジリエンス強化促進事業」

環境省は総務省と連携し、徹底した省エネと再生可能エネルギー(以下、再エネ)の活用によるデータセンターのゼロエミッション化および再エネによる災害時の継続能力向上等のレジリエンス強化を目的とした補助制度を実施している。
本制度の対象は以下の4事業で、いずれも低コストでのデータセンターの省エネ化・省CO2化実現を目的としている。それぞれ補助率や上限額・補助期間が異なるため、自社の計画に適した補助制度の活用を検討するのもよいだろう(図3)。
 
1. 地域再エネの活用によりゼロエミッション化を目指すデータセンター構築支援事業
新設するデータセンターに対し、自家消費型(データセンターの同一敷地内に再エネ設備を設置し発電した電力をデータセンターに供給する形態)、または地産地消型(データセンターの敷地外に再エネ設備を設置し発電した電力を自営線経由でデータセンターに供給する形態)の再エネ設備および省CO2型設備を導入する際に利用が可能。

2. 既存データセンターの再エネ導入等による省CO2改修促進事業
既存のデータセンターに対し、再エネ設備の導入や空調設備等の省CO2型設備へ更新する際に利用が可能。

3. 省CO2型データセンターへのサーバー等移設促進事業
既存のデータセンターに設置されたサーバー等を、東京圏以外に立地する省CO2型データセンターへ移設する際に利用が可能。ICT機器(サーバー、ストレージ、通信機器等)やその空調・冷却設備、移設に伴う冗長構成、輸送費などが対象となる。

4. 地域再エネの効率的活用に資するコンテナ・モジュール型データセンター導入促進事業
コンテナ・モジュール型データセンター(ICT機器等の必要設備を1つのコンテナや連結可能なモジュールに収容したデータセンター)において、高効率のICT機器や設備およびそれらの稼働や運用を管理するシステム等を導入する際に利用が可能。ICT機器等の設備費用だけでなく、ICT機器等を収容するコンテナ等の外装箱費も対象となる。

図3:「データセンターのゼロエミッション化・レジリエンス強化促進事業」概要

一般社団法人地域循環共生社会連携協会「二酸化炭素排出抑制対策事業費補助金(データセンターのゼロエミッション化・レジリエンス強化促進事業)説明資料」[4]を基にクニエ作成

 

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「グリーンイノベーション基金事業(次世代デジタルインフラの構築)」

「グリーンイノベーション基金事業」は、グリーン成長戦略における重点分野および「GX実現に向けた基本方針」*における主要分野を対象に、野心的な目標にコミットする企業に対し最長10年間研究開発・実証から社会実装までを継続して支援する制度である。
* GX(グリーントランスフォーメーション)を通じて脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の3つを同時に実現するべく、GX実行会議や各省における審議会等での議論を踏まえ策定された取り組み方針の取りまとめ
 
本制度の適用対象となるプロジェクトのうち、デジタル分野に関連するものとして「次世代デジタルインフラの構築」を紹介する。
本プロジェクトは、デジタル化の急速な進展に伴う増エネ・増CO2に対処するためには半導体・情報通信産業のグリーン化が必要不可欠であるとし、2030年までに「次世代グリーンパワー半導体の開発」、「次世代グリーンデータセンター技術開発」、「IoTセンシングのプラットフォーム構築」の3つを目指すものだ。対象プロジェクトはいずれもグリーンofデジタルがテーマで、予算額は全体で1,901.2億円となっている(2024年4月現在)。
 
1. 次世代グリーンパワー半導体の開発
自動車、産業機器、電力、家電など生活に関わる電気機器の制御に使用されており、今後電化・デジタル化に伴い需要増が予測される電気機器を省エネ化するため、半導体自体の省エネ化が期待されている。
 
2. 次世代グリーンデータセンター技術開発
デジタル化によるデータ量の増加に伴う増エネが懸念されており、再エネ調達にも限界があることから、今後データセンター自体の省エネ化を目指す方針である。
 
3. IoTセンシングプラットフォーム構築
各エッジ端末から送られてくる膨大なデータ量の処理にかかるネットワーク負荷にも耐えうるプラットフォームとして構築が期待されている。また本プラットフォームを基盤として、エッジコンピューティング技術を開発することでシステム全体の消費電力削減を目指す方針である。

おわりに

カーボンニュートラルは都市経営・企業経営における最重要課題であり、DXはその実現に欠かせない。しかし、DXの進展による増エネ・増CO2を考慮しなければ、カーボンニュートラルへの道に逆行する可能性がある。本稿は取り組みの一部として省エネ法ベンチマーク制度と各種補助制度について解説した。
今後デジタル産業として自社製品の省エネ・グリーン化は避けては通れない。国の支援を上手く活用しながら技術開発を進める必要があるだろう。

 

関連サービス

クニエGXソリューション
https://www.qunie.com/gx_solution/

  1. [1] 国立研究開発法人科学技術振興機構(2022), “情報化社会の進展がエネルギー消費に耐える影響Vol.4”, https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2021-pp-01.pdf(参照2024年6月17日)
  2. [2] 国立研究開発法人科学技術振興機構(2023),“情報化社会の進展がエネルギー消費に耐える影響Vol.5”, https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2022-pp-05.pdf(参照2024年6月17日)
  3. [3] 経済産業省資源エネルギー庁(2023), “令和5年度第1回工場等判断基準WG省エネ法に関する措置について”, https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/kojo_handan/pdf/2023_001_04_00.pdf(参照2024年6月17日)
  4. [4] 一般社団法人地域循環共生社会連携協会(2024), “二酸化炭素排出抑制対策事業費補助金「データセンターのゼロエミッション化・レジリエンス強化促進事業」説明資料”, https://rcespa.jp/wordpress/wp-content/uploads/8_R05hosei-R06_DC_setsumeisiryou_20240419.pdf(参照2024年6月17日)

中川 日菜子

通信・メディア業界担当

シニアコンサルタント

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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