2024.08.01

ハイブリッドワークを成功に導く3つの要点

「接続性」「透明性」「柔軟性」から見るコミュニケーション変革設計とは

安井 公彦 

Summary

  • 新型コロナウイルスの影響で在宅勤務が急速に普及し、その後、在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせたハイブリッドワークが注目された。ハイブリッドワークは従業員のワークライフバランスの向上や企業の生産性向上に貢献する一方で、「情報アクセスの不均衡による業務効率の低下」「在宅勤務前提でのコミュニケーション文化の欠如によるエンゲージメント低下」「時間と場所の違いによる意思疎通の欠如」といった課題に直面する。
  • これらの課題を克服するためには、コミュニケーションの変革が不可欠である。具体的には、在宅とオフィスの従業員間での情報の不均衡を解消する「接続性」、組織全体の目標や意志決定プロセス等を明確化する「透明性」、異なる時間帯や場所での働き方に対応する「柔軟性」の3つの要素に焦点を当てた取り組みが必要だ。
  • 「接続性」の強化には、統一されたデジタルツールの選定と利用促進が重要である。「透明性」の確保には、経営層の積極的な情報発信やハイブリッド形式での社内イベントの開催、意思決定プロセスへの参加とフィードバック、雑談や非公式な会話のオンライン化が有効。「柔軟性」の促進には、非同期コミュニケーションの設計が求められる。

ハイブリッドワーク時代のコミュニケーション変革の必要性について

ハイブリッドワーク時代の到来とその必要性

2020年の新型コロナウイルスの蔓延から従業員の安全確保を最優先するため、これまでオフィス出社が当たり前であった状況から全面的な在宅勤務が急速に普及した。そして状況が落ち着いてからは対面でのコミュニケーションを重視し、多くの企業はオフィスへの回帰を模索した。しかし、完全なオフィス回帰にはリスクを伴う。なぜなら育児や介護など家庭の事情により柔軟な働き方を求める従業員は完全オフィス回帰を受け入れられないほか、在宅勤務中に培われたワークライフバランスの恩恵が失われることは従業員の離職リスクを高めてしまう懸念もある。
このような背景から、在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせたハイブリッドワークが注目されるようになった。ハイブリッドワークは、従業員のワークライフバランスを維持しつつ、企業にとってもコスト削減や生産性向上の効果をもたらす。
東洋経済ブランドスタジオが2023年8月に行ったハイブリッドワークに関する意識調査の結果によると、ハイブリッドワークを導入している企業は57%と大きい割合を占めている。また、ハイブリッドワークに対する考えとして「導入されており、これからも実施したい」という回答が52.8%で最も多く、「導入されている」と回答している方のみで、「これからも実施したい」の割合をみると、約8割を占める結果となった[1]。

これらの動向からも、ハイブリッドワークが人材獲得や定着において重要な役割を果たしており、今の働き方として最適であると考える。

コミュニケーション変革の必要性

対面と在宅勤務の両方のメリットを享受できるハイブリッドワークはいい事尽くしのように思えるが、実際にはハイブリッドワークを導入した多くの企業は、「情報アクセスの不均衡による業務効率の低下」「在宅勤務前提でのコミュニケーション文化の欠如によるエンゲージメント低下」「時間と場所の違いによる意思疎通の欠如」という課題に直面する。

・情報アクセスの不均衡による業務効率の低下
ハイブリッドワーク環境では、在宅勤務の従業員とオフィス勤務の従業員間での情報アクセスの不均衡が顕著になる。具体的には出社を前提とした情報のやり取り・共有により出社しないと入手できない情報が存在し、在宅勤務の従業員は必要な情報を入手するために多くの時間を費やすこととなり、業務効率が大幅に低下する。加えて、在宅・オフィス双方の従業員に対して適切な情報共有が行われないことで業務に対する理解や認識の差が生まれ、チーム全体の生産性が低下する。

筆者の経験として、オフィス・在宅勤務の従業員混在でのオンライン会議に参加する機会があった。しかし在宅勤務の従業員がオフィスのホワイトボードに書かれた進捗状況をリアルタイムで確認できず、必要な情報を得るために多くの時間を費やすこととなった。そして作業の重複やタスクの漏れが発生し、プロジェクト全体の進行が遅れてしまう事象が頻発していた。

・在宅勤務前提でのコミュニケーション文化の欠如によるエンゲージメント低下
ハイブリッドワーク環境において、在宅勤務を前提としたコミュニケーション文化が欠如していると、オフィス・在宅勤務の従業員間のコミュニケーション障壁により、在宅勤務の従業員が最新の情報や意思決定のプロセスから取り残されることが多くなる。結果として、在宅勤務の従業員は孤立感を抱きやすくなり、チームワークやエンゲージメントが低下する。

実際に筆者のプロジェクトでも、在宅勤務の従業員はオフィス勤務の従業員に比べて自然発生的な雑談や非公式な情報交換に参加できないため、公式な場では語られない業務に関する重要な情報を逃すことが多発した。具体的には上司や同僚との雑談で得られる顧客の状況、潜在的なニーズ・不満といった情報を把握できず、顧客に対する提案の余地が見逃されていた。また、上司や同僚との雑談から急遽発生する会議への参加機会を逃してしまうことも多発し、不満が蓄積した。
一方でオフィス勤務の従業員には仕事に関連する情報量が多くなる傾向にあり、その結果、在宅勤務の社員よりも仕事が集中して業務量が過剰になり、ストレスや不公平感が高まった状況も見聞きしてきた。

・時間と場所の違いによる意思疎通の欠如
ハイブリッドワーク環境では、従業員が異なる時間帯や場所で働くことが多くなり、メッセージのやり取りがリアルタイムで行われないことがある。その結果メッセージの意図が正確に伝わらず、意思疎通が不十分となり、従業員間の協力が難しくなるケースもある。

在宅勤務中の従業員が家庭の事情や予期せぬ出来事で一時的にオンライン会議を離れなければならないタイミングがあり、その結果重要な情報や決定事項を見逃し、後から情報を補完するために多くの時間を費やすことになった例などが挙げられる。
また異なるタイムゾーンで働く従業員間では、時間差によりリアルタイムでのフィードバックや確認が遅れ、業務の進行が滞ることが頻繁に発生した。さらに緊急時に必要な情報が迅速に共有されず対応が遅れることで、プロジェクト全体の遅延や失敗のリスクが増大した。

組織全体の生産性と従業員満足度を向上させるためには、ハイブリッドワークを成功につなげてコミュニケーションを変革することが不可欠である。
次章では、コミュニケーション変革に欠かせない3つの要素について掘り下げる。
 

コミュニケーション変革における3つの要素

ハイブリッドワーク環境におけるコミュニケーション変革を実現するためには、「接続性」「透明性」「柔軟性」に焦点を当てることで、組織全体の効率と従業員の満足度を向上させることができる。

1. 接続性の強化 — 在宅・オフィス間における情報格差の解消
接続性とは、在宅勤務とオフィス勤務の従業員間における情報やコミュニケーションの円滑性を指す。従業員がどこにいても全員が同じ情報を共有できる環境を作り出すことで、情報アクセスの不均衡を解消できる。これにより地理的な制約や時間差に関わらず効果的な情報流通を実現し、従業員間のコミュニケーション障壁を低減して在宅・オフィス勤務の従業員間の情報格差を最小限に抑える。

2. 透明性の確保 — 組織全体のエンゲージメント向上
信頼と相互理解を促進するために、すべての従業員が組織の目標や意思決定プロセス、運営の透明性を感じられる環境を構築する必要がある。これにより従業員の意思決定への参加と理解を深めることができ、組織全体の一体感やモチベーション、エンゲージメントが向上する。

3. 柔軟性の促進 — 異なる時間帯と場所での働き方への対応
ハイブリッドワークでは、従業員は個々の生活や作業スタイルに合わせて異なる時間帯や場所で働くことが多くなる。そのためリアルタイムでのコミュニケーションが困難になることを前提に効果的なコミュニケーションを実践するための指針を作成し、業務設計を見直すことで、従業員が効率よく情報共有し、意思疎通が図れる環境を整える。

これらの要素を適切に組み合わせることで、ハイブリッドワーク環境下でのコミュニケーション課題に対処し、効果的なコラボレーションと生産性の向上を実現することが必要である。次章ではこれらの要素をどのように実行していくかを具体的に解説する。

実施にあたっての具体的なアプローチ

ハイブリッドワーク環境における効果的なコミュニケーション変革を実現するためのアプローチを、先述した「1. 接続性の強化」「2. 透明性の確保」「3. 柔軟性の促進」の観点で示す。
各アプローチを実践することで、ハイブリッドワーク環境下でのコミュニケーション効率を大幅に向上させ、組織全体の生産性向上や効率化の促進が可能となる。

1. 接続性の強化

・統一されたツールの選定
効率的なコミュニケーションを実現するためには、組織内で使用する最適なデジタルツールを選定し、統一することが重要である。ツールの乱立を防ぎ、スムーズに情報共有を可能にすることでチーム間の情報格差を最小限に抑え、全員が必要な情報へアクセスしやすい基盤を整える。

・デジタルツールの利用促進
ツールの利用を促進するために、利用方法のトレーニングや学習コンテンツを提供する。初心者~上級者向けなど、各社員のツール習熟度に応じた計画的なトレーニングプログラムを組み、社員同士が交流できるコミュニティを提供するのもよいだろう。加えて、組織やチーム単位でツールの利活用推進者を配置し、同僚のサポートとフォローを行うことも重要だ。そしてただ配置するだけでなく、ツールの利活用推進者の活動を正当に評価する必要がある。これにより情報交換やディスカッションの場をデジタルツールに集約し、在宅とオフィスの従業員間の協調性を向上させる。
また、在宅・オフィスのハイブリッドでのオンライン会議で利用するホワイトボードについては、Web会議ツールのホワイトボード機能の活用、会議室への専用端末導入によるホワイトボードデジタル化、これらが難しい場合は会議後のホワイトボード内容を写真でチャットツール上にアップロードすることで、在宅勤務の社員が必要な情報を得やすくなる。

これらの工夫により全従業員が必要な情報に迅速かつ効率的にアクセスできるようになり、在宅・オフィス勤務社員間での情報格差を最小限に抑えられる。

2. 透明性の確保

・経営層からの積極的なコミュニケーション
意思決定の透明性を確保するためには、経営層からのオープンな情報発信が不可欠である。そこで、経営層自らが在宅勤務をデフォルトとし、意思決定の場をオンライン中心に行うことで、経営層やマネージャー層が在宅勤務をデフォルトの選択として推進する。これにより全社員に対して一貫したメッセージを伝えることができ、企業文化としてハイブリッドワークが根付くようにする。

また、経営層から従業員に対する定期的なメッセージ発信も有効である。例えば、経営層が一週間を通じて行った取り組みや感じたことを、毎週決まった曜日にテキストだけでなく動画や写真を使って従業員が親しみやすい内容で振り返りを発信する。これを全従業員のチャットツール上に通知が届くようにすることで、従業員にもオープンなコミュニケーションを促す。

・社内イベントのハイブリッド開催
オフィス勤務と在宅勤務の両者に情報を的確に伝えるために、社内の大規模イベントを対面とオンラインのハイブリッドで開催する。例えば、全社や部署別でのキックオフイベント、新製品発表会、表彰式、会社イベントやレクリエーションなどを対面とオンラインのハイブリッドで開催し、全従業員が一体感をもって働ける環境を整える。また、会場の熱気をオンライン参加者にも届けるための工夫を施し、参加者の出席率を上げることで、全員が同じ情報や体験をリアルタイムで共有し、会社全体の結束力を高める。

・対面・オンラインを問わない意思決定プロセスへの参加とフィードバックの実施
透明性の確保という観点では、従業員がチームの意思決定プロセスに対面・オンライン問わず参加できることや、仕事の評価や改善点を適切にフィードバックすることが大事である。例えば、チームの仕事の状況の振り返りと次のアクションの決定を対面とオンラインのハイブリッド会議で実施するのも良いだろう。こうすれば在宅・オフィス勤務問わず、どちらの従業員も意思決定プロセスに参加できるようになり、チーム運営に関する平等性を担保できる。

また1対1のフィードバックセッションを従業員に応じて対面やオンラインで定期的に実施し、マネージャー層が社員個々の進捗や課題・業務量を詳細に把握することで、オフィス勤務の従業員への仕事量の偏りを解消できる。加えて、チームビルディング活動を通じて従業員同士の交流を促進し、情報の遅延や誤解を減少させ、業務効率と従業員のエンゲージメントを向上させる。

・雑談や非公式な会話のオンライン化
経営層からの情報だけでなく、必要なすべての情報をオンラインコミュニケーションの導線上に集約する。従業員が必要な情報にいつでもアクセスできるようにして組織全体の透明性を保つことが重要である。これは公式のやりとりのみに留まらず、雑談や非公式な会話も同様だ。チャットツールに専用の雑談チャネルを設けて日常的な雑談やアイデア交換を奨励し、従業員間のコミュニケーションだけでなくコミュニティとしての繋がり強化や知識共有の促進にも寄与する。

3. 柔軟性の促進

・時間差を考慮したコミュニケーションの設計
リアルタイムではなく、タイミングがずれこむ「非同期のコミュニケーション」を前提に、情報共有のガイドラインを策定する。電話などの口頭でのやり取りは議事録にしてオンラインで共有し、オンライン会議は録画して誰でも閲覧可能な状態にする。これにより、その場に参加できなかった従業員も後から情報を確認でき、全員が最新の情報にアクセス可能な環境を整える。この実践方法を指針や心得としてガイドラインを策定し全従業員に展開することで、より全社での潤滑なコミュニケーションの実現に近づく。

ガイドラインの具体例を挙げると、即時対応が必要なタスクとそうでないタスクを明確に区別するためにチャットツール上の機能を使い、「メッセージの優先度」を設定するルールの導入だ。これにより、緊急性が高いメッセージが明確になる。また、緊急事項に対するフォロー体制として、メッセージを確認するべき従業員が気づけない場合に備え、予めフォロー役の従業員を指定しておく。フォロー役の従業員は対応者が不在の場合や対応が遅れている場合に、迅速に対応を引き継いで対応可能な体制を整える。また、会議の録画と議事録のオンライン共有をルールとして定めて周知を徹底することで、従業員は常時情報を確認でき、時間・場所問わずより円滑な働き方が可能になる。

おわりに

ここまでハイブリッドワークにおける課題と、課題解決のアプローチとして「接続性」「透明性」「柔軟性」という3つの要素に焦点を当てた解決策の実施が重要であることを記載した。
従業員と組織がこの変革をともに理解し積極的に取り組むことで、より一体感のある効率的なワークプレイスを実現することが可能となる。これらの要素に焦点を当てたコミュニケーション変革計画を策定し実行することが、今後の組織の成功を左右する。

  1. [1] 東洋経済ブランドスタジオ(2023), “東洋経済オンライン読者にハイブリッドワークに関する調査を実施”, https://biz.toyokeizai.net/blog/detail/id=2970(参照2024年6月24日)

安井 公彦

CIOサポート担当

シニアコンサルタント

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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