2024.06.18
マーケティング部門コストは増加の一途をたどるのか? 求められるコスト視点の取り組み
「投資余力の増大」や「人員増を伴わない高度化対応」を実現するコスト改善アプローチ
堀内 直太郎
日本における2023年の総広告費は1947年の推定開始以来、過去最高値を更新したという[1]。近年のデジタル化の進展により企業のマーケティング活動は一層多様化し、業務の高度化が求められている。これに伴い、マーケティング部門が主管する広告宣伝費(外注費)をはじめ、マーケティング部門における専門人材確保・育成といった人件費などの要因も加わり、増加し続けるマーケティング部門のコストに課題感を持つ企業も多い。
この課題に対応する具体的な取り組みが「マーケティング部門コスト最適化」である。これは、生産性向上やケイパビリティ(組織能力)向上を通じて自社のマーケティング業務力を強化し、外注費の低減による投資余力の増大や省人化、すなわち人員増を伴わない高度化対応をねらいとする取り組みだ。その結果として、「マーケティングROI(Return on Investment)向上」にもつながっていく。
本稿では、増加傾向にあるマーケティング部門コストに対し、自社のマーケティング業務力強化の観点からアプローチする「マーケティング部門コスト最適化」の取り組みについて解説する。
増加の一途をたどるのか?マーケティング部門コスト増加の背景
電通の調査によると、日本における2023年の総広告費は、通年で7兆3,167億円(前年比103.0%)となり、1947年の推定開始以降、前年に続き過去最高を更新したという。マーケティング部門が主管する広告宣伝費はこのまま増加の一途をたどるのであろうか。
この背景には近年のデジタル化の進展がある。消費者はオンライン、オフラインを問わず、さまざまなチャネル/タッチポイントを使い分けた購買行動をとっている。企業はこれに対応すべく、マーケティングの高度化が求められている(図1)。
図1:求められるマーケティングの高度化
リアルメディアからデジタルメディアの活用へのシフト、そして小売事業者が自社で保有する消費者の購買データなどを活用して広告を効果的に配信するリテールメディア活用など、米国市場で先行していた取り組みが近年日本市場においても進みつつある。これらに対応していくために、広告代理店等の外部パートナーへの依存度が高まっているのである。
また、マーケティング部門ではマーケティングの高度化に対応するべく、デジタルマーケティングやデータ分析などの専門人材の確保・育成が急務となっているケースが多い。これが部門人件費のさらなる増加につながっており、マーケティング部門コストがかさむ傾向にある。
では、マーケティング部門においてコスト改善の取り組みは行われていないのか。マーケティング部門において、広告宣伝費は「費用ではなく先行投資」と認識されていることも少なくなく、「投下したコストに対していかに高い効果を上げるのか」が論点になっているアプローチは多い。しかし、コスト改善を切り口としたアプローチを行っているケースは少ない。このようなことを背景に、マーケティング部門コストは今後も増加傾向が続いていくと考えている。
単なるコスト視点ではなく「投資余力の増大」や「人員増を伴わない高度化対応」の実現を
増加傾向にあるマーケティング部門コストに対応する具体的な取り組みが「マーケティング部門コスト最適化」だ。これは、生産性向上やケイパビリティ強化の取り組みを通じて自社のマーケティング業務力を強化することで、外注費の低減による投資余力の増大や省人化、すなわち人員増を伴わない高度化対応をねらいとする取り組みである。
先述の通り、マーケティング部門において、広告宣伝費は「費用ではなく先行投資」と認識されていることも少なくないため、単なるコスト低減を行っていくことは部門内で抵抗感が出る可能性もあるだろう。そこで、本取り組みに対してマーケティング投資額の増加ニーズへの対応や既存人材の生産性向上による人材不足への対応など、単なるコスト削減の視点に留まらない上位目的を設定しておくことが重要だ。
また、これらの取り組みの結果として生まれた投資余力を追加のマーケティング投資に振り向けていくことで、マーケティングROI向上にもつながっていく。このような好循環を回す取り組みが「マーケティング部門コスト最適化」において重要である。
「マーケティング部門コスト最適化」を実践する3つの取り組み
マーケティング部門コスト最適化に取り組むにあたっては、自社のマーケティング業務力を高めることが重要となるが、そのためには「①非効率な業務/非生産的な業務の見直し」や「②外注内容に関する見直し/一部内製化」に取り組んでいくことが重要だ。また、①や②にやみくもに取り組むのではなく、「③改善余地の見える化」を行ってから取り組んでいくことが肝要である。①~③それぞれの取り組みにおける留意点を挙げる。
①非効率な業務/非生産的な業務の見直し
マーケティング部門の業務には、「属人的」、「手作業が多い」、「必要なデータがない、または散在している」といった非効率業務/非生産的なものが多い。また、コア業務とノンコア業務の構成についても、ノンコア業務の割合が大きく、ノンコア業務に忙殺されコア業務になかなか従事できないという状況も散見されている。このような点に着眼し、生産性向上やケイパビリティ強化の取り組みを通じて自社のマーケティング業務力を強化していくことで、「ノンコア業務の生産性向上→コア業務への量的強化→コア業務への注力強化」という業務改善を行っていくことが重要である(図2)。
図2:マーケティング部門コスト最適化の取り組みイメージ
②外注内容に関する見直し/一部内製化
広告宣伝費として外注している内容には、広告代理店等の外部パートナー依存になっていて、提案を鵜呑みにしてしまっているケースや、本当は内製で取り組むべきであるが取り組めていないケースなど、改善余地は大きいものの埋没化してしまっているコストも少なくない。例えば、施策の費用対効果を細かく検証できておらず、低ROI施策を見落としたまま広告配信を続けているケースなどはその一例である。①にしっかりと取り組むことにより、コア業務が量的・質的に強化されることで、外注内容に関する見直し/一部内製化が可能になる。
③改善余地の見える化
これらの改善活動をやみくもに取り組んでいくのは得策ではない。①については業務内容および業務量調査を行い、②については現在の広告宣伝費における外注内容を分析して埋没してしまっている「もったいないコスト」を調査したうえ、改善余地(期待効果)を事前に見える化してから取り組むことが重要である。こうすることにより、IT投資にともなう「マーケティング業務DX」の取り組みとして位置づけることが可能となり、単なる業務改善ではなく「業務変革」を行うことができる。
おわりに
マーケティング部門コスト最適化の取り組みは、単なるコスト改善アプローチではない。投資余力の増大や人員増を伴わない高度化対応を実現し、マーケティング投資額の増加ニーズへの対応や人材不足への対応、ひいてはマーケティングROI向上につなげていく取り組みである。特に、年間数十~数百億円以上におよぶ広告宣伝費をかけているような企業は、数%改善するだけでも大きな投資余力が生み出され、これを新たなマーケティング投資に振り向けていくことでさらなる成果につながっていく。
ぜひ本稿を参考に、マーケティング部門コスト最適化の取り組みを実践していってほしい。
関連サービス
「マーケティング部門コスト最適化診断サービス」の提供開始(2024年6月18日)
https://www.qunie.com/release/20240618/
- [1] 電通株式会社(2024), “2023年日本の総広告費”, https://www.dentsu.co.jp/news/release/2024/0227-010688.html(参照日2024年5月16日)
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