2023.10.16

当事者目線で考える女性活躍推進の在り方とは

【第1回】女性活躍推進の基本的なステップ

原口 夏美 

日本における女性活躍推進の歴史は長く、1985年の男女雇用機会均等法、2015年の女性活躍推進法などさまざまな法律が整備されてきた。一方で、2023年に世界経済フォーラムが発表したジェンダー・ギャップ指数における日本の総合順位は146カ国中125位となり、2006年の本指標発表以来、最低順位となっている。[1]
企業はこの喫緊の課題に対し、どのように向き合えばよいのか。本連載では、女性活躍推進の基本的なステップを解説し、その上で女性目線で見る現状と取り組みの好事例について、全3回にわたり触れていく。

はじめに

内閣府男女共同参画局は、すべての女性が輝ける社会を目指して「女性版骨太の方針2023」をまとめた。 [2]
この中で書かれている通り、「社会全体で女性活躍の機運を醸成し、多様性を確保していくことは、男女ともに自らの個性と能力を最大限に発揮できる社会の実現のために不可欠であるとともに、イノベーションの創出と事業変革の促進を通じて企業の持続的な成長、ひいては日本経済の発展に資することを踏まえ、~以下、略~」といったことはどの企業も理解しており、「女性活躍は必須というより当たり前である」「女性活躍を確実に推進すべきだ」と多くの人は考えている。

しかし、世の中を見渡すと、少しずつ女性活躍は進んでいても、真の意味で女性活躍が成功しているという企業はまだ少ない印象を受ける。なぜ、そのような印象を与えているのか、その一因は女性活躍の目的や現状を理解しているようで理解しきれていない点にあると考える。第1回となる今回は女性活躍の基本的な進め方を示しながら、女性活躍を推進するポイントを解説したい。

女性活躍推進の基本的なステップ

クニエでは女性活躍推進のステップとして、図1のように大きく4段階を定義している。女性活躍がうまく進んでいないという企業は、いずれかのステップが欠けていることが多い。特に「女性活躍が“なぜか”うまくいっていない」という企業ではStep1の検討が十分にされていないことが多い。当社も、「経営陣に女性管理職比率等のKPIの達成を求められている」「女性活躍推進法への対応を急いでいる」といった相談をよく受ける。しかし、このファーストステップが欠けていることで、女性活躍推進を実施すること自体が目的になってしまい、その結果、何かしらの施策・制度を導入しても、思ったようにKPIを達成できず、そこから何をしたらよいか分からなくなってしまっているというケースが多い。

女性活躍推進を成功させるためには、単にKPIを設定するだけではなく、企業として「なぜ女性活躍を実現するのか」という目的や「女性活躍を推進し、会社としてどのような姿を目指したいのか」というあるべき姿を明確にすることが肝要となる。

図1:女性活躍推進の進め方4ステップ

 

各ステップの概要とポイント

次に、各ステップの概要と検討を進める上でのポイントを解説する。なお、Step3、 4については第2回、第3回で触れることとし、本稿では詳細割愛とする。

Step1:目的・あるべき姿の定義
先ほども述べた通り、女性の活躍を考えるためには、まず、企業として女性活躍を推進する目的やあるべき姿を明らかにすることが重要である。この時に本質的な目的ではなく、「女性管理職を早急に増やしたい」「とにかく“女性にいきいき”活躍してほしい」という考え方をしてしまうと落とし穴にはまりやすくなる。これらの考え方に基づき、女性活躍を進めていくと、現場にハレーションを生じさせてしまい、周りの理解を得られずに取り組みが足踏みしてしまったり、「どの層に・どうなってほしいのか」が不明確なまま効果が薄い制度を乱立させてしまったりすることとなる。このような落とし穴にはまらないためには、まず関係者内で女性活躍の目的に対する理解を深め、その上で女性活躍のあるべき姿を定義する必要がある。この時、あわせて取り組みでターゲットとすべき層を明確にすることで、Step3以降で施策を検討しやすくなる。

図2:女性活躍の目的・あるべき姿(例)

 

図3:女性活躍推進のターゲットと取り組み方針(例)

 
女性活躍推進では、「評価:高、キャリアアップ志向:あり」の女性をターゲットとする企業が多い。実際に「評価:高、キャリアアップ志向:あり」をターゲットとし、女性活躍推進を成功させている企業も多い。ただし、業界・企業の特徴によってはターゲットとすべき層が異なる場合もある。子どもを持つ女性の中には、「仕事には復帰したいけれども、子どもとの時間を十分にとれるように、責任が大きくなる管理職は目指したくない」と思う人もいるだろう。そのような女性が多い職場においては、むしろ「評価:高、志向:なし」の層をターゲットとし、評価の高い女性社員が安定的にパフォーマンスを出せる仕組みを導入したり、子どもとの時間を十分に確保したうえで管理職を担える職場へ変革したりすることが必要になる。そのため、ターゲットを設定する際には「自社にいる女性がどのような考えを持っているのか」を見極める必要がある。

Step1はStep2以降のKPI、施策・制度、チェンジマネジメントを検討する際の前提事項となるため、経営陣も含めて、十分に検討していただきたい。

Step2:KPIの設定
次に実施するのがKPI設定である。人事のKPIの基本的な考え方については、人的資本開示の義務化から考える「人事部のためのKPI」をあわせて参照いただきたい。

KPIを設定する際に一番重要となるのは、Step1で定義した自社の女性活躍の目的やあるべき姿から考えられているか、妥当なKPI(項目・数値)になっているかという点である。下記のような情報を収集しておくと検討が進みやすい。

  • 政府の指標・情報公開項目:日本政府の掲げている目標数値および女性活躍推進法における情報公表項目
  • 他社事例:他社がサステナビリティレポートや統合報告書・有価証券報告書等で公開しているKPI
  • 自社の現状:人事分析等で把握している自社の女性活躍推進に関わる状況

図4:政府の指標の例と情報公開項目

出典:男女共同参画局(2023年6月)「女性版骨太の方針2023」[2]、 内閣府(2020年5月)「少子化社会対策大綱」[3]、厚生労働省(2022年7月)「女性の活躍に関する『情報公表』が変わります」[4]を基にクニエが作成

一方で、KPIを設定する際に政府の指標や他社事例に引きずられ、到達が困難な目標を設定しまうケースも少なくない。もちろん政府指標を目指すことは重要ではあるが、あまりに実現可能性が低い目標を設定してしまうと、具体的な施策に結びつかない、施策を推進するモチベーションが低下する等の影響を生じさせることになる。そのため、KPI設定時には必ず自社の現状を把握しながら、現実的な指標を設定するようにしたい。

Step3:施策・制度設計
KPIの設定まで完了したら、次に具体的に女性活躍を推進するための施策や制度を検討していく。本ステップの詳細は第2回でお伝えする。

Step4:チェンジマネジメント
最後に女性活躍推進に欠かせないものが、全社を巻き込んだチェンジマネジメントである。いくら施策・制度が整備されていても、その施策・制度をうまく活用する職場になっていなければ女性活躍推進の成功はない。実際に、男性社員から「女性を優遇するための施策なのではないか」「女性活躍と言っても、現場でそのようなことを言っている余裕がない」という声が上がったり、当事者である女性からも「制度があっても使いづらい雰囲気になっている」「制度の存在を知らなかった」という声が上がったりすることも少なくない。

施策・制度を整備することも重要だが、真の女性活躍を実現するために企業の組織文化やこれまでの慣例を変えていくことは非常に重要となる。本ステップの詳細は第3回で解説する。

おわりに

女性活躍推進は今後、日本企業が考えなければいけない重要な課題の1つとなっている。本稿ではまず、女性活躍推進の基本的なステップを解説した。第2回、第3回の記事では女性活躍推進を取り巻く現状や事例を踏まえ、企業が取り組むべきことをお伝えする。

  1. [1] 世界経済フォーラム(2023), “Global Gender Gap Report 2023”, https://jp.weforum.org/reports/global-gender-gap-report-2023(参照日2023年7月20日)
  2. [2] 男女共同参画局(2023), “女性版骨太の方針2023”, https://www.gender.go.jp/policy/sokushin/sokushin.html(参照日2023年7月20日)
  3. [3] 内閣府(2020), “少子化社会対策大綱”, https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/law/taikou_r02.html(参照日2023年8月2日)
  4. [4] 厚生労働省(2022), “女性の活躍に関する「情報公表」が変わります”, https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000962289.pdf(参照日2023年7月25日)

原口 夏美

人材マネジメント担当

シニアコンサルタント

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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