2023.08.29
ビジネス環境変化に迅速に対応するためのSAP(ERP)基幹システム更新 3つのポイント
庄司 浩一
SAPの保守期限の問題やDXの推進から、SAP(ERP)基幹システムの更新が多く行われている。このタイミングを機に、ビジネス環境変化への対応力強化を目的として業務の標準化を推進する企業は多い。しかし“勘所”を外したまま検討を進めてしまい、基礎的なミスが大きな問題に繋がり、プロジェクトが躓くケースも散見されている。SAP基幹システム更新にあたって大規模な問題が発生すると、ビジネス環境変化対応力強化が十分でないうえに費用・期間が想定の数倍になることも珍しくなく、経営に対して大きなインパクトを与えかねない。
そこで本稿では、ビジネス環境変化対応力強化(更なる標準化)に資するSAP基幹システム更新のポイントを、(1)Fit to Standard導入手法の盲点、(2)標準化阻害要因の抽出、(3)標準化推進の方針の3つの観点から解説していく。
Fit to Standard導入手法の盲点
「Fit to Standard」とは、SAP基幹システムを導入する際に、アドオン開発を行わずに、業務内容をSAP基幹システムの標準機能に合わせていく導入手法で、現在、ほとんどの導入プロジェクトで用いられている。この手法を用いて SAP基幹システムの標準機能で対応可能な業務とそうでない業務を明確化し、要求定義時にSAP基幹システムの標準に合わせる形で業務標準化を進める。Fit to Standardにはさまざまなメリットがあるが、この手法を用いることでプロジェクトの対象範囲すべてが標準化できるとユーザー側が錯覚してしまうところが盲点と言える。
一方、Fit to Standardの適用が難しい部分は、アドオン開発に振れる可能性が高い。Fit to Standardの適用が難しいケースは、以下のようなケースだ。
- SAP基幹システムが想定していない業務がある
- SAP基幹システムが想定している業務のコンセプトとの乖離が大きい業務がある
- 周辺システムと基幹システムで成立する業務がある
- 周辺システムと基幹システムでデータ項目が異なる/データ粒度の乖離が大きい など
これらはFit to Standardの検討において、SAP基幹システムに業務機能が無い部分や、機能があったとしてもコンセプトに大きく乖離があると業務をFitさせることが出来ず、SAP基幹システムのアドオン開発に振れる。また、周辺システムとの連携は、連携することが必須と考えがちで、元々周辺システムと基幹システムの業務区分けの良くないものがあることが認識されづらくなる。また、データ項目が異なることやデータ粒度の乖離が大きくても、無理に合わせようとしてアドオン開発を増大させる。これらは、標準化阻害要因と言っても過言ではない。
これらのことが、要求定義時に露見した場合、多少のことなら是正が可能だが、規模が大きいものがいくつもある場合は要求定義期間や体制の制約により、是正できないままアドオン開発を選択せざるを得ない。その結果、全体の開発工数が当初予定を超えることになり、プロジェクト遅延やコスト増大を発生させることになる。
ビジネス環境の変化に迅速に対応していくには、ベストプラクティス、かつ常に最新の機能を利用できる標準機能であることが望ましい。 その為にはFit to Standard導入手法の有効範囲を適切に理解し、プロジェクト開始前にその方法論だけで対応ができるかどうかを見極め、対応できないものについての対応策を十分に検討しておく必要がある。
標準化阻害要因の抽出
それでは、プロジェクト開始前(構想策定時)に標準化を阻害する要因を抽出するためには、具体的にどうすれば良いのか。その最も良い方法は、現行ERPのアドオン開発状況の分析を行い、それらの中に阻害要因があるかを判断することである。
抽出する主要な着目点は、以下の4点だ。
- SAP基幹システムが想定していない業務をアドオン開発している
- SAP基幹システムが想定している業務のコンセプトとの乖離から発生するアドオン開発がある
- 周辺システムと基幹システムで成立する業務のアドオン開発群がある
- 周辺システムと基幹システムでデータ項目が異なる/データ粒度の乖離から発生するアドオン開発がある など
これらの視点でアドオン開発を抽出し、さらに以下の観点でその妥当性を見極める必要がある。
- 本当に実施すべき業務か
- その業務プロセスは妥当か
- その業務のシステムの区分けが適切か
- その業務はSAP基幹システム内にあるべき業務か
- システム間でデータ項目の違いや管理粒度の違いを認めることが適切か など
これらを検討して、改善すべきと判断されたものが標準化阻害要因と考えられる。
標準化推進の方針
標準化阻害要因を特定したら、対応策を検討する。その際、“あるべき姿”を検討すると、更新プロジェクト範囲が拡大する傾向があることに注意が必要だ。
あるべき姿を考えると、周辺システムの業務含めて変更すべきという結論になる場合や、SAP基幹システムだけでなく多くのソリューション活用が必要という結論になり、プロジェクト体制も大きくなるケースも考えられる。それをそのまま実行計画にすると、SAP基幹システム更新プロジェクトのリスクが高くなるということもあるため、各対策の実現性については予め十分に検証しておく必要がある。
また、業務や部門のKPIを変更する必要がある場合は調整に時間が要することも多く、プロジェクト開始前に関係者(経営層/業務側)と合意のうえ、方針を決定することが重要だ。
検討の方向性(例)
- 業務処理を臨機応変型から計画して実行するPDCA型に変更
- SAP基幹システム以外のソリューションにて実現
- 周辺システムも含めて業務見直しを検討
- 情報項目や情報粒度を基幹システムに合わせる
実現性で確認すべき点(例)
- 体制/期間/コスト/新ソリューションの可能性/プロジェクトスコープの広さ
標準化阻害要因への対応を検討し、リスクが許容範囲と判断されたものは、プロジェクトの構想策定時のアウトプットとして具体的な対策を明記する。ここまで整理した後にSAP基幹システムの更新プロジェクトを実施すれば、要求定義でFit to Standard導入手法が活かせることになり、SAP基幹システムと関連する周辺システム含め標準化が進み、結果的に変化対応力を強化した基幹システム構築が達成できる可能性がかなり高くなる。
おわりに
本稿では、SAP基幹システムの更新プロジェクトでビジネス環境変化に迅速に対応するための3つのポイントについて論じてきた。結局のところ、構想策定時の事前準備段階で、標準化を進めるための十分な地ならしをしておくことが重要ということだ。
これからSAP基幹システム更新プロジェクトの立ち上げを検討している企業はプロジェクトを成功に導くためにも、ぜひこれらについて検討いただきたい。
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