2023.06.27
300の事例から見えたデータマネタイゼーションの事業創出アプローチ
【第1回】「データマネタイゼーション」とは何か
データマネタイゼーションの定義と日本企業の取り組み状況
和田 真洋
近年、ネットワークやデジタルデバイスが飛躍的に高度化し、今では私たちの生活や経済活動において必要不可欠なインフラとなった。スマートフォンやICカード、製造機械のIoT化などさまざまなサービスが提供されており、これらICTの進化を通じてデータの取得・流通が促進し、企業には膨大なデータが蓄積されるようになってきた。
これに伴い、企業においては経営層からの「データ(資産)を活用した収益創出」の強い要請や、データの活用推進をミッションとした部署の設立など、データ活用に関するさまざまな動きがある。その中で今回紹介したいのが「データマネタイゼーション」という取り組みである。
世界に目を向ければ、米国をはじめとしたデジタル先進国では、すでにデータマネタイゼーションへ注目が集まっている。今後さらにデバイス、ネットワークの高度化が進み膨大な量のデータが蓄積されることを背景に、日本においてもデータマネタイゼーションへの関心が高まり、事例が生み出されてくるものと考える。
本稿では、データマネタイゼーションの概要や日本における取り組み状況・事例、および実現へ向けたアプローチについて全4回にわたり解説する。
データマネタイゼーションとは「新たな提供価値と収益源の創出」
データマネタイゼーションについては、さまざまな定義・説明がなされているが、本稿においては、「企業におけるデータ活用の一つで、保有するデータを基に、新しい提供価値および収益源を創出する取り組み」と定義する。
データ活用は、その目的から大きく2つに分けることができる(図1)。
図1:データ活用の目的によるデータマネタイゼーションの定義
1つ目は「業務の高度化・効率化」を目的に行われるデータ活用だ。業務効率化やマーケティングでの活用などがこれにあたる。業務効率化の例としては、売り上げデータを基にした在庫の最適化や、ビジネスプロセスのデータ化によるオペレーションの可視化、マーケティングにおける例は、販売実績・顧客属性データを基にした新商品の開発や、最適なプロモーション計画の策定などが挙げられる。これらの活動は、主に既存事業における収益向上や、コスト削減などを目的とした活動である。
そして2つ目の目的が「新たな収益源の創出」であり、これをクニエではデータマネタイゼーションと定義している。既存事業とは異なる新たな価値を、新たな顧客セグメントに対して提供することで、新しい収益源の創出を目指すものだ(図2)。
前者との違いは、「提供価値」「顧客セグメント」「収益源」の各要素が、既存事業に貢献するのか、それとも新しい事業へ貢献するかの違いである。それぞれの要素が「新しい事業への貢献」となる状態をデータマネタイゼーションとしている。
図2:データマネタイゼーションで目指す「新たな収益源の創出」の要素
例えば、既存ビジネスから取得した販売実績データの外部企業への販売や、取得データの分析レポート販売、コンサルティングサービスの販売など、既存事業とは異なる新しい提供価値を創出し提供することで、新たな収益を生み出す取り組みが該当する。
ただ、「提供価値」のみが既存事業と異なる場合も、データマネタイゼーションと定義・分類されているケースも見られる。広義としては「データを活用して、新たな収益源を創出する活動」をデータマネタイゼーションと考えることもできるだろう。
データマネタイゼーションは戦略面の検討が不足している
さらに理解を深めるため、データマネタイゼーションで必要となる機能・役割を整理してみたい。データマネタイゼーションで必要な機能・役割は、三階層のピラミッド構造で整理することができる。下層から「テクノロジー」「データガバナンス・マネジメント」「ストラテジー(戦略)」の三階層のピラミッド構造となる(図3)。
まず最下層の「テクノロジー」は、文字通り提供価値の創出等で必要となる各種技術で、提供価値の差別化や競争優位性の創出に貢献する機能・役割である。続く中段の「データガバナンス・マネジメント」はデータの利活用におけるポリシーやルールの設定、管理・改善の取り組みである。データの収集・保存・加工・利用等に関するルールや、権限・責任の明確化、データの品質管理やセキュリティ対策、プライバシー保護などの方針を策定し実行する。中段のデータガバナンス・マネジメントの実現に、最下層のテクノロジーが活用される関係性である。最後に、最も上流に位置するのが「ストラテジー」であり、企業として保有するデータの活用目的や方法、ビジネスモデルの設計などが含まれる。データマネタイゼーションは、ストラテジー(戦略)を起点としてデータガバナンス・マネジメントを策定し、テクノロジーにより実行することで実現される。
現在、企業におけるデータ活用に関するインターネット上の情報やデータ分析の関連書籍などを見ると、プログラミングやシステム構築、またはAIや機械学習を活用したデータサイエンスの内容など、テクノロジーとデータガバナンス/マネジメントの機能・役割に焦点が当たっているケースが多い。そのためか、データマネタイゼーションの実現においても、テクノロジーとデータガバナンス/マネジメントを企画の中心に据えて推進するケースをよく目にする。しかし、データマネタイゼーションでは、データ活用の中において、収益を創造することが求められる。そのため実現へ向けては、ビジネスモデル設計などストラテジーの機能・役割が検討において欠かせない要素となる。
図3:データマネタイゼーションで必要となる機能・役割
世界のデータマネタイゼーション市場は成長予測
ここからはビジネスの現場など市場におけるデータマネタイゼーションへの期待や実態、捉え方について見ていきたい。
データマネタイゼーションの世界市場規模に関しては、各社より推計レポートが出されている。その1つ、グローバルインフォメーション社の予測によると、2022年で約29億ドル(約3,900億円)、2027年で約73億ドル(約9,500億円)と推計されている(図4)。仮に、技術発展等の影響を一定だとしたうえでこの傾向が続けば、2035年には約303億ドル(約4兆円)の規模になると考えられる。各レポートでの差はあるが、いずれにおいても、今後の成長が予測されている。
図4:データマネタイゼーションの世界市場規模
日本企業のデータマネタイゼーションの取り組み割合はまだ少数
一方で、日本に目を向けてみると、データマネタイゼーションを経験した企業はまだ少ないのが現状である。クニエが2022年9月に実施した、日本企業を対象としたデータマネタイゼーションの実態調査によれば、調査対象者のうち約4%しかデータマネタイゼーションに取り組んだ経験がないと回答している(図5)。さらに、データマネタイゼーションを事業として立ち上げた経験がある回答者を対象として、立ち上げ状況を調査したところ、実際に事業化まで至ったのは35%、また収益化まで至ったのは15%に留まっていた(図6)。データマネタイゼーションを経験した企業は少なく、経験がある企業においても、事業化さらには収益化まで達成するのは困難であることが伺える。
図5:データマネタイゼーションの経験有無
図6:データマネタイゼーション事業の事業化/収益化成功率
これらデータマネタイゼーションの実現の難しさを背景に、日本企業におけるデータマネタイゼーションの気運は停滞しているかのように見える(図7)。2019年には約70%の企業において、データマネタイゼーションの実現に対する気運が高まったものの、88%の企業において高まった気運が現在下がったと回答している。
図7:データマネタイゼーションの取り組みに関する気運の高まりと現在
一方で、私たちの肌感覚としては気運の停滞をあまり感じない。日々のコンサルティング業務では、経営層や部長などの役職の方と接する機会が多く、これらの層におけるデータマネタイゼーションの気運はあまり停滞していないように感じる。実際に、データマネタイゼーションの実現について相談されるケースは多々あり、件数はむしろ増加している。ただし、現場で業務を担当されている方々においては、経営層における気運とは異なり、データマネタイゼーションの実現に苦戦している様子が伺える。経営層からデータマネタイゼーションの実現を命じられ、検討を始めたものの、その実現の難しさを痛感し、実現を諦めかけている。こういったケースは、年々、目の当たりにすることが増えている。
デジタル化の進展とともに増すデータマネタイゼーションの重要性
日本におけるデータマネタイゼーションの取り組みは、今後進むのだろうか。おそらく、日本のデジタル化のフェーズが進むことにより、データマネタイゼーションの取り組みも進むのではないかと筆者は考える。スタンフォード大学のリチャード・ダッシャー氏による整理・分類を基にすれば、現在日本は第3次産業革命にあたり、デジタル化のフェーズと分類される。一方で、アメリカをはじめとするデジタル先進国は第4次産業革命にあたり、デジタル化による新しい価値の創造のフェーズと分類される(図8)。データマネタイゼーションとは新しい価値を創出する取り組みであるため、この整理では第4次産業革命に分類することができる。つまり、日本の技術革新のフェーズが進展することで、データマネタイゼーションの取り組みも進んでいくと考えている。
図8:デジタル先進国と日本の産業革命のフェーズ
デジタル化の進展により、企業内に蓄積されるデータ量は今後ますます増大していく。データを企業経営上の重要な資産と見なし、価値創出に活用していくことは、今後の企業競争力にもつながるため、データマネタイゼーションへの注目はさらに加速し、実現の重要性も高まることが予想される。しかし、繰り返しだが、データマネタイゼーションの実現は簡単ではない。そのため、今のうちから積極的にデータマネタイゼーションを意識して取り組み、経験を積んでおくことが必要なのではないだろうか。
おわりに
実現難易度こそ高いものの、データマネタイゼーションは一時的なバズワードではなく、企業のデータ活用戦略の1つとして今後定着していくと筆者は考えている。
次回、第2回ではデータマネタイゼーションにおける3つのビジネスモデルと事例をお伝えする。
- [1] 株式会社グローバルインフォメーション(2022), “データマネタイゼーションの世界市場:コンポーネント(ツール、サービス)、データタイプ(顧客データ、財務データ)、ビジネス機能、展開タイプ、組織規模、業界、地域別 - 2027年までの予測”, https://www.gii.co.jp/report/mama1080149-data-monetization-market-by-component-tools.html(参照2023年4月27日)
- [2] TECHBLITZ(2021), “スタンフォード大学ダッシャー氏「日本のDXが世界から遅れている理由」”, https://techblitz.com/dasher_dx/(参照2023年4月27日)
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