2022.09.27
アフリカのための、アフリカにおける日EU協力のあり方とは
日EUアフリカ三極のパートナーシップが持つ大きな意味
Becquemin, Nicolas(ベクマン ニコラ)
第8回アフリカ開発会議(TICAD8)において、日本政府は、これまでのTICADと同様に、アフリカの開発を支援する新たなコミットメントを表明した。
官の積極的なイニシアティブが見られる一方、日本の民間セクターは依然としてアフリカへの投資に消極的で、官民で温度差がある。アフリカに対する日本の直接投資が相対的に低い主な理由は、リスクが高いと考えすぎていることと、現地ビジネスの専門知識が欠如していることだと考える。
日本の民間セクターのアフリカビジネスを促進するため、企業間の提携や共通のプラットフォームをもつことを通じて、日EU間の官民をまたぐ協力関係を強化することを提唱する。日EU連携により、ビジネス戦略上の相乗効果ももちろん期待できるが、日EUが価値観を共有し、共通の政治アジェンダをもつことは、アフリカの開発課題の解決に向けた強力な推進力となる。
第8回アフリカ開発会議
2022年8月27日および28日にTICAD8がチュニジアの首都チュニスで開催された。TICADは日本とアフリカのパートナーシップを強化することを目的として、日本政府の主導で、国連、国連開発計画、世界銀行およびアフリカ連合委員会と共同で開催される国際会議だ。初めて開催された1993年の第1回会議から30年近くが経過した今もなお、アフリカの開発課題の解決にビジネスを通じて貢献しようとする日本企業にとって、ビジネスの可能性を見出す重要な機会となっている。
アフリカは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による社会的・経済的影響に苦しみ続けている。ロシアのウクライナ侵攻以降、世界的なサプライチェーンの崩壊によって生活必需品の価格が上昇したこととも相まって、アフリカの栄養問題の状況は悪化している。さらに、干ばつ、降水量の減少、洪水など、気候変動の影響を最も受けている地域の一つでもあり、これらは農業生産性と食料安全保障を麻痺させている。TICAD8は、このような危機的状況に直面しているアフリカ大陸への支援を強化するため、日本を含む国際社会の意識と機運の醸成を目指している。
日本はTICAD8において、アフリカに3年間で300億ドルの官民資金を投入すると発表した。その内訳は、食糧生産支援に3億ドル、脱炭素化移行プロジェクトに40億ドル、アフリカ開発銀行のEPSA(Enhanced Private Sector Assistance for Africa:アフリカの民間セクター開発のための共同イニシアティブ)を通じた民間セクター支援に50億ドルなどである。さらに、伝染病や農作物の病気に対処するため、保健や農業分野において3年間で30万人の人材育成を謳っている。
これらの資金拠出や協力の根底にあるコンセプトは、「公平なパートナーシップ、公正なオーナーシップ、持続可能な金融の促進を通じて『レジリエントで持続可能な社会』を構築する」というゴールに深く根ざしている。これは、2016年にケニア・ナイロビで開催された第6回会議(TICAD VI)時点で既に始まっていた流れであり、これを受けて日本もアフリカへの関与の力点を、援助から民間投資へと徐々にシフトしていくことを確認している。
低調なアフリカへの関与
このような日本政府の公式発表を踏まえつつ、日本のアフリカへの投資動向の実態を見てみたい。日本とアフリカのパートナーシップを強化するという機運は、2016年のTICAD VIで大いに高まるかと考えられたが、その後は勢いを失っているように見える。アフリカに対する日本の政府開発援助(ODA)は、年により増減があるもののおよそ20億ドルで推移している(図1)。
図1:日本の対アフリカODA供与額
また、アフリカにおける日本の海外直接投資(FDI)の残高は、2016年から2019年の3年間で39%も下落し、2020年はCOVID-19の影響もありさらに減少した(図2)。
図2:日本の対アフリカ直接投資残高
日本の民間企業は、進出企業数で見るとアフリカでの存在感を強めており、2017年の795社から2020年には900社[3]に増加した。しかしFDI残高はむしろ減っている。一方、中国は同時期にアフリカとのパートナーシップを大幅に強化している。進出企業数3,500社[4]は日本を大きく凌駕し、2020年時点のFDI残高は423億米ドルと日本の約9倍に達している。2016年に安倍晋三首相(当時)が呼びかけた民間資金の動員に対応したとは言い難い日本の状況とは大きく異なる。
日本の民間企業はアフリカの景況回復を見込む
アフリカでのビジネスチャンスに対する日本企業の認識はどのようなものだろうか。日本貿易振興機構(JETRO)が2021年に実施した調査[3]からは、日本企業には楽観的な見方が多いことが浮かび上がってくる。この調査は現在アフリカに進出している日本企業900社の中から335社が対象となり、その内3分の2にあたる258社が回答した。回答企業の進出国はアフリカ大陸の20カ国に分散している。
調査によると、回答企業の49%が2021年はアフリカビジネスの黒字を見込んでおり、これは前年比約13ポイントの増加で、COVID-19以前の数値に戻っている。2022年についても楽観的な見方が多く、同50%が、アフリカの景気回復が定着すると予想している。 また、48%の企業が、1~2年以内にアフリカでの事業を拡大したいと考えており、前年比約7ポイント増となった。そして、日本の投資家が待ち望んだアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の導入に伴い、58%の企業が2027年までに国際戦略におけるアフリカの重要性をさらに高めると回答している(図3)。
図3:海外戦略におけるアフリカの今後5年間の位置づけ
日本企業はリスクに対して非常に慎重
2年間の景気後退を経て、日本の民間セクターがアフリカの景況の改善を指摘しているにもかかわらず、アフリカへの投資は「リスクが高い」として、多くの日本企業は躊躇の姿勢を維持している。その理由として回答企業の65%は、規制・法令の整備、運用がまだ不十分であると回答し、同56%が、不安定な政治・社会情勢をリスクと考えている[3]。
また、パンデミックの影響を受け、日本人が参加する多くの会議や出張はキャンセルされた。現在、欧米企業がアフリカでの足場をほぼ取り戻した一方で、日本人はいまだにアフリカへの渡航に消極的である。チュニスで開催されたTICAD8で、日本人の経営者や政府関係者の参加率が低かったことは残念なことだが、これはアフリカと日本の「距離」が現実的に広がっていることを明確に示している。MOU(Memorandum of Understanding)署名セレモニーで日本とアフリカの間で交わされた92件のMOU[5]を見ても、日本側のほとんどが長年にわたりアフリカに関わっている企業・団体で、新規参入者はごく少数であることがわかる。
日本企業の弱点と思われるもの
では、日本の民間企業のアフリカ進出を阻む主な要因は何なのだろうか。日本企業の本社に在籍する経営幹部に話を聞きながら、アフリカにおける日本企業の状況を分析すると、長期的(あるいは歴史的)なつながりの欠如と、地理的距離が主な障壁になっていることが明らかである。具体的には、以下のようなものが挙げられる。
- 強力で確立されたローカルネットワークの欠如
- 専門的な人材の不足
- 利益機会に対する認識不足
- アフリカの市場環境と参入戦略についての知識不足
日本企業はアフリカでの経験やネットワークに乏しく、またリスクも高いと考えているので、アフリカでの事業を開始する際には日本政府のODAに頼りたい、と考える経営者が多い。しかし、ODAが減少している現状をとらえ、アフリカですでに活動しているEU企業との協力という、別の解決策を以下で提案したい。
民間セクターにおける日EUアフリカ三極のパートナーシップ
日本企業の7割が、アフリカでのビジネス拡大のためには海外企業との直接提携に前向きだと回答している。その中で、EU企業(フランス、ドイツ、ポルトガルなど)が有望なパートナーとして上位に挙げられている[3]。
図4:アフリカビジネスにおいて第三国連系のパートナーとなる国[3]
理想的なパートナーとしてEUが認識されていることには、さまざまな理由が考えられる。
- 直接の競争相手でない場合、技術やノウハウを相互に補完することができる。
- 日本企業の多くが、EU子会社を通じてアフリカでの事業運営や市場調査を行っている。
- 「質の高いインフラ」、すなわちライフサイクルコストや環境保全、あるいは透明性と公正な慣行を含む社会とガバナンスの実践、というような概念を重視する点で日本とEUは一致している。EUをパートナーとすることで、EUあるいは日本の援助機関や金融機関の資金提供を受けることができる。
もう少し深掘りすると、例えばインフラ分野では、以下のような潜在的な相乗効果を見出せるのではないだろうか。
EU側から提供できる価値
- 先進的な金融商品へのアクセス
- アフリカでのプロジェクトにおける高い企画力、デザイン力、エンジニアリング力
- 現地で確立されたサプライチェーンとパートナー
- PPP (Public Private Partnership)案件のノウハウ - 特に日本企業はアフリカではPPP案件の経験が少ない
- アフリカ諸国との深い外交関係による高い交渉力
日本側から提供できる価値
- 長寿命、低ライフサイクルコストに強みを発揮する技術力
- 契約条項履行、納期遵守、時間厳守といった信頼性
- 環境・防災・安全などの技術、プロジェクトマネジメントのノウハウ
- 南アジアや東南アジアなどでの豊富な新興国ビジネス経験
- 日本の金融機関へのアクセス
- 日本の商社へのアクセス(大手商社は、投資・サプライチェーン・物流・マーケティング活動・オフテイク契約・日本の大手民間銀行の投融資および保証など、多岐にわたるサポートが可能な会社として認知されており、EU企業から見ても協業したい意向は強い)
アフリカにおける国際金融機関と日EUの協力の機会
民間企業間の明らかな相乗効果に加え、開発金融機関が資金を提供するプロジェクトでも、調達プロセスにおいて日本とEUが協力できる可能性が高い。多くの日本企業にとって、EU企業が持つ国際金融機関の入札に関する経験・専門知識は非常に貴重なものであり、パートナーシップの意義を見出すことができる。また、EU企業が強い関係を持つアフリカの現地パートナーの存在も、こうした入札に対応するための要件となることが多い。
2022年8月31日に開催されたTICAD8公式サイドイベント「アフリカの社会・経済発展貢献へのオポチュニティ~アフリカ・日本・EUの三国間ビジネス連携を通じて~」(主催:一般財団法人 日欧産業協力センター、共催:アフリカ開発銀行アジア代表事務所・株式会社クニエ)において、国際協力銀行、EU投資銀行、アフリカ開発銀行の各登壇者は、アフリカにおける日EUの協力関係の強化と、三極のパートナーシップを通じた資金調達の促進が必要であるという認識を示した。協力関係を強化するための新しい資金提供機会が作られることを期待している。
グローバルな課題・価値観の共有・共通のアジェンダ
2022年5月、第28回日EU定期首脳協議[6]で、「日本及びEUの首脳は、日EU経済連携協定(EPA)及び戦略的パートナーシップ協定に基づき、自由、人権の尊重、民主主義、法の支配、開かれた自由かつ公正な貿易、効果的な多国間主義及びルールに基づく国際秩序といった共通の利益及び共有された価値に基づいて、緊密で包括的なパートナーシップを再確認する」と宣言した。
日本とEUの間では長年にわたり、戦略的パートナーシップ協定(SPA)、経済連携協定(EPA)、持続可能な連結性及び質の高いインフラに関するパートナーシップ、グリーンアライアンス、デジタルパートナーシップなど、双方における関心と価値の共有を示す協定や枠組みが締結されてきた。
これらの協定を駆動する共通原則が、日本のアフリカに対するコミットメントの核心であり、中国の「一帯一路」構想や、いわゆる「債務の罠外交」との重要な差異点となっている。日本は資金力では中国に劣るかもしれないが、信用、責任ある融資、信頼性、透明性、誠意を重視することで、アフリカにおいて有望市場とパートナーシップを獲得することができると考える。
EUと日本にとって、二国間レベルで宣言されている共通の価値観は、EU政府または日本政府の一対一の取り組みに限定されるものではない。EUが解決を目指す喫緊の課題(気候変動、食糧安全保障、人権尊重)はグローバルな課題であり、この解決に向けては同じ志を持つアフリカのパートナーとの対話、プラットフォーム、行動を確立する必要がある。このような課題の解決に向けた思いや価値観がEUあるいは日本独自のものであると考えるのは間違いであり、アフリカ連合アジェンダ2063[7]の中でも明確に打ち出されている。これらは、アフリカが目指す未来と一致している。
例えば、ルワンダ政府は、ペルーとともに、パリ協定以降最も重要な環境に関する多国間協定で世界をリードした。2022年3月、ケニアのナイロビで開催された第5回国連環境総会再開セッション(UNEA5.2)[8]では、プラスチック汚染を終わらせ、2024年までに175カ国間で法的拘束力のある国際合意を形成するための歴史的な決議が行われた。アフリカは、日本とEUが目指す未来を共有できるパートナーである。
おわりに
2050年には、世界人口の25%がアフリカ人になると言われている。アフリカが世界の貿易、地政学、サプライチェーン、技術開発に大きな影響を与えるようになることは間違いなく、「障壁が高すぎる」「アフリカでの事業戦略を十分に練られていない」などを理由にアフリカでの事業意欲と価値を投げ出すようであれば、「誤った選択」として歴史に刻まれることになろう。日本は、現在および将来の日EU協力協定を、アフリカにおいて、また、アフリカのために、どのように有効活用するかを真剣に検討するべきである。
そうした協定や枠組みには、原則が明確に示されており、それが気候変動や経済危機に最も脆弱な国々での協力を拡大するための要件になっているのだ。その意味で、アフリカ-EU-日本間の協力の拡大は、日本の民間企業がアフリカにおけるプレゼンスを高める機会を創出するだけでなく、公正さ、透明性、多国間主義が現代のグローバルな課題に対する唯一の有効な回答であると信じる、我々を含むすべての人々にとっての希望となる。
- [1] OECD(2020年), “CRS Aid Activity database”, https://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=crs1(参照2022年9月15日)
- [2] JETRO(2022年), “日本の国・地域別対外直接投資残高”, https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/japan/stats/fdi/data/21fdistock01_jp.xls(参照2022年9月15日)
- [3] JETRO(2022年), “日本のアフリカビジネスの現状と今後の展望”, https://www.jetro.go.jp/ext_images/biz/seminar/2022/498627734de3fda5/shiryo.pdf(参照2022年9月15日)
- [4] 新華網(2021年), “China and Africa in the New Era: A Partnership of Equals”, http://www.news.cn/english/2021-11/26/c_1310333813.htm(参照2022年9月15日)
- [5] 外務省(2022年), “List of MOUs”, https://www.mofa.go.jp/files/100386285.pdf(参照2022年9月15日)
- [6] 外務省(2022年), “第28回日EU定期首脳協議 共同声明(仮訳)”, https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ep/page4_005605.html(参照2022年9月15日)
- [7] Africa Union(2022年), “Our Aspirations for the Africa We Want”, https://au.int/en/agenda2063/aspirations(参照2022年9月15日)
- [8] UN News(2022年), “Nations sign up to end global scourge of plastic pollution”, https://news.un.org/en/story/2022/03/1113142(参照2022年9月15日)